行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

判例・ニュース

障害者グループホームの元施設長が、入居者の預金を着服した疑いで逮捕。「管理者だから大丈夫」をやめる預かり金のルール

こんにちは、ぺーさんです。

埼玉県朝霞市の障害者グループホームで、元施設長の男性が、入居者さんから預かっていたキャッシュカードを使って現金を引き出し、着服した疑いで逮捕されたという報道がありました。

グループホームや入所施設では、利用者さんの通帳やカードを事業所が預かっている、というところも少なくありません。訪問系の事業所でも、買い物代金などでお金に触れる場面はあります。今回は、報道の概要を整理したうえで、利用者さんのお金を扱う事業所が見直したいルールを考えます。

※本記事は報道されている範囲の概要に触れるのみで、個別の事案の詳細には立ち入りません。また、逮捕の段階であり、有罪が確定したわけではありません。

報道の概要

10月27日の報道(NHK、テレ玉ほか)によると、概要は次のとおりです。

  • 埼玉県警朝霞警察署が、業務上横領の疑いで、44歳の元施設長の男性を逮捕しました
  • 去年1月、施設長を務めていた障害者グループホームで、入居者さんから預かったキャッシュカードを無断で使い、市内のコンビニのATMから複数回にわたって、あわせて40万円を引き出して着服した疑いが持たれています
  • 去年7月、グループホームを運営する会社の職員が「施設長が、預かったキャッシュカードで900万円ほどを引き出していることがわかった」と警察に相談したことで発覚しました
  • 元施設長は容疑を認め、「ギャンブルにお金を使いたかった」「魔が差した」という趣旨の話をしているとのことです
  • 警察は、あわせて約985万円の出金を確認しており、ほかにも余罪があるとみて調べています

このニュースから見えること

報道されている範囲で、福祉事業所として注目したい点は3つあります。

1. 「施設長」がやっていた

お金の管理で不正が起きるとき、「一番信頼されている人」が関わっていることがよくあります。施設長・管理者は、通帳やカードの保管場所を知っていて、出納のチェックをする立場でもあります。チェックする人とお金を動かす人が同じなら、不正は見つかりにくくなります。

2. キャッシュカードで「何度も」引き出せていた

1回ではなく、複数回にわたって引き出されていたと報じられています。カードと暗証番号が一緒に管理されていたり、出金のたびに別の人が確認する仕組みがなかったりすると、こうしたことが起きやすくなります。

3. 発覚までに時間がかかり、金額が大きくなった

疑いが持たれている出金は去年1月で、運営会社から警察への相談は去年7月です。報道では、確認された出金は約985万円にのぼるとされています。早い段階で気づける仕組みがあれば、被害はここまで大きくならなかったかもしれません。

利用者さんのお金を勝手に使うのは「経済的虐待」

障害者虐待防止法では、利用者さんの財産を不当に処分すること、利用者さんから不当に財産上の利益を得ることを経済的虐待としています。今回のような着服は、刑事事件であると同時に、施設職員による虐待の問題でもあります。

施設・事業所の職員による虐待を受けたと思われる利用者さんを見つけた人には、市町村への通報義務があります。「上司のことだから」「証拠がはっきりしないから」と見過ごすことはできません。

また、事業所としての責任も問われます。たとえば埼玉県は2025年、県内の障害者支援施設で前施設長が利用者さんの現金を窃取していたことについて、経済的虐待にあたるとして、新規利用者の受入停止3か月の処分を公表しています。職員個人の問題では終わらず、事業所の指定にも影響する、ということは押さえておきたいところです。

見直したい「預かり金のルール」

ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。グループホームなどで利用者さんのお金を預かる場合を中心にまとめます。所轄の自治体が示しているルールがある場合は、そちらを優先してください。

① 管理者も例外にしない

いちばん大事なのはここです。「管理者が責任を持って管理する」ではなく、管理者のお金の動きも、ほかの人がチェックできる形にします。

  • 出金・入金は、必ず2人以上で確認し、記録に2人のサインを残す
  • 出納帳のチェックは、お金を扱った人とは別の人が行う
  • 法人の本部や代表者が、月1回は通帳の記帳内容と出納帳を照らし合わせる

② カードと暗証番号、通帳と印鑑は別々に保管する

  • キャッシュカードと暗証番号のメモを同じ場所に置かない
  • 通帳と印鑑も別々の場所に、鍵をかけて保管する
  • 鍵を持つ人を決め、鍵の受け渡しも記録する

③ 本人・家族に定期的に報告する

  • 月1回など決まったタイミングで、出納帳の写しや残高を、本人や家族(成年後見人がいる場合は後見人)に見てもらう
  • 領収書は保管し、いつでも見せられるようにしておく

「誰かが見ている」という状態は、不正を防ぐだけでなく、お金を扱う職員を「疑い」から守ることにもつながります。

④ 預かる範囲を、契約書・同意書で決めておく

  • 何を預かるのか(通帳・カード・現金・印鑑など)
  • いくらまでを手元で管理するのか
  • 出金の手続きと報告の方法

これを書面で取り決め、本人・家族の同意を得ておきます。なんとなく預かり始めて、ルールがないまま続いている、という状態がいちばん危険です。

⑤ そもそも事業所が預からなくてよい仕組みにつなぐ

お金の管理に不安がある利用者さんには、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業や、成年後見制度など、事業所以外の仕組みにつなぐことも考えます。事業所がお金を抱え込まないことが、いちばんの予防になる場合もあります。

訪問系の事業所での考え方は、「金銭・通帳・貴重品の預かりを頼まれたとき」で詳しくまとめています。

なお、入れ歯や補聴器のような「お金に見えない貴重品」の管理は、同じ日に報じられた長崎の介護施設の件をもとに「お金に見えない貴重品をどう守るか」でまとめています。

⑥ 虐待防止委員会・研修で、経済的虐待を取り上げる

虐待防止の研修や委員会では、身体的虐待や心理的虐待に目が向きがちです。今回のようなニュースを題材に、経済的虐待も年に1回は取り上げましょう。「おかしいと思ったら、管理者を飛ばして法人の本部や虐待防止の担当者に相談してよい」と明言しておくことも大切です。

委員会の進め方は「虐待防止委員会の進め方:構成員・議題・議事録」、体制づくりの全体像は「障害福祉サービスの虐待防止体制」で紹介しています。

ルールと研修の準備に

ふくしノートでは、今回の内容に取り組むための雛形と研修資料を用意しています。

まとめ

  • 埼玉県朝霞市の障害者グループホームで、元施設長が入居者さんのキャッシュカードで現金を引き出し、着服した疑いで逮捕されました
  • 警察は約985万円の出金を確認しており、余罪も調べています
  • 利用者さんのお金を勝手に使うことは、経済的虐待にあたります。見つけた人には市町村への通報義務があります
  • 「管理者も例外にしない」「カードと暗証番号を分けて保管」「本人・家族への定期報告」「預かる範囲を書面で決める」などのルールを見直しましょう

以下は私の考えです。お金の管理は、信頼関係の上に成り立っています。だからこそ、「あの人なら大丈夫」という信頼だけに頼らず、誰が担当しても同じようにチェックされる仕組みにしておくことが大切だと思います。仕組みで守ることは、利用者さんを守ることであり、お金を扱う職員自身を守ることでもあります。

本記事は、公開されている報道をもとに一般的な内容を整理したものです。最新かつ正確な内容は、各省庁・自治体の公式資料をご確認ください。

この記事のテーマで使える資料