行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

判例・ニュース

介護施設の元職員が、入居者の「金歯入りの入れ歯」を盗んだ疑いで逮捕。お金に見えない貴重品をどう守るか

こんにちは、ぺーさんです。

長崎県南島原市の老人介護施設で、元職員の男性が、入居者さんの入れ歯を盗んだ疑いで逮捕されたという報道がありました。狙いは、入れ歯に使われていた金歯だったとのことです。

同じ日には、埼玉県の障害者グループホームで、元施設長が入居者さんの預金を着服した疑いで逮捕されたというニュースもありました。そちらは「管理者だから大丈夫」をやめる預かり金のルールとしてまとめています。

今回は「お金」ではなく、**入れ歯のような「お金に見えない貴重品」**の守り方を考えます。

※本記事は報道されている範囲の概要に触れるのみで、個別の事案の詳細には立ち入りません。また、逮捕の段階であり、有罪が確定したわけではありません。

報道の概要

10月27日〜28日の報道(NBC長崎放送、長崎文化放送、テレビ朝日系ほか)によると、概要は次のとおりです。

  • 長崎県警南島原警察署が、窃盗の疑いで、33歳の元職員の男性を逮捕しました
  • 9月5日の夕方から6日の朝にかけて、当時勤めていた南島原市内の老人介護施設で、入居者さんの入れ歯(上下1組)とケース、時価あわせて2万5000円相当を盗んだ疑いが持たれています
  • 入れ歯は数本に金がかぶせてあり、職員の勤務スペースで管理されていたと報じられています
  • 入れ歯がなくなっていることに気づいたほかの職員が、3日後に警察に届け出ました
  • 元職員は容疑を認め、「金歯を売って借金の返済にあてるつもりだった」という趣旨の話をしているとのことです
  • 警察は余罪の可能性も視野に調べています

このニュースから見えること

1. 入れ歯も「財産」だということ

入れ歯は、毎日のケアで職員が手に取るものです。洗浄や保管を任されているうちに、「ケア用品」の感覚になりがちです。でも、金や銀が使われていれば、それ自体に値段がつきます。報道によると、金の価格は1グラム2万円を超えているそうです。

入れ歯・補聴器・眼鏡・腕時計・指輪。どれも、利用者さんの生活に欠かせないものであり、利用者さんの財産です。

2. 「職員の勤務スペース」は、職員なら誰でも手が届く場所

報道では、入れ歯は職員の勤務スペースで管理されていたとされています。夜間の洗浄・保管のために、ステーションなどにまとめて置いておく運用は、珍しくないと思います。ただ、それは「職員なら誰でも触れる場所」でもあります。

3. 3日で気づけたのは、大事なこと

今回は、ほかの職員が「ない」ことに気づき、3日後には警察に届け出ています。朝霞のグループホームの件では、発覚まで半年ほどかかり、被害が大きくなっていました。**「なくなったことに、すぐ気づける」**ことは、被害を広げないための大きなポイントです。

利用者さんの物を盗るのは「経済的虐待」

施設の職員が利用者さんの財産を不当に処分したり、自分のものにしたりすることは、刑事事件であると同時に、虐待の問題でもあります。

  • 介護保険の施設・事業所では、高齢者虐待防止法の「経済的虐待」
  • 障害福祉の施設・事業所では、障害者虐待防止法の「経済的虐待」

どちらの法律でも、施設・事業所の職員による虐待を受けたと思われる人を見つけた職員には、市町村への通報義務があります。「入れ歯くらいで」「同僚のことだから」と見過ごすことはできません。

見直したい「お金に見えない貴重品」の管理

ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。入所・入居系の施設を中心に、訪問系でも使える考え方をまとめます。

① 「何を預かっているか」を一覧にする

  • 入居・利用開始のときに、入れ歯(金属を使っているかどうかも)、補聴器、眼鏡、時計、アクセサリーなどを、本人・家族と一緒に確認して記録する
  • 写真を撮っておくと、紛失したときの確認にも役立つ(撮影は本人・家族の同意を得て、業務用の端末で)
  • 入れ歯ケースや補聴器のケースには、名前を書いておく

② 保管場所を「誰でも触れる場所」にしない

  • 入れ歯は、できるだけ本人の居室で、本人のケースに保管する
  • 夜間などにまとめて保管する必要があるときは、決まった場所に置き、数を記録する
  • 高価なアクセサリーなどは、そもそも施設に持ち込まない・家族に持ち帰ってもらうことを、入居時に相談する

③ 「あるはずの物がある」ことを、毎日確かめる

  • 朝の口腔ケアのとき、入浴のときなど、決まったタイミングで「入れ歯・補聴器・眼鏡がそろっているか」を確認する
  • 申し送りやチェック表に、確認したことを残す

なくなったことにすぐ気づける仕組みは、盗難を防ぐだけでなく、単なる紛失を「盗まれた」と疑われる事態から職員を守ることにもつながります。

④ なくなったときの対応を決めておく

  • まずは居室・洗面所・リネン・ゴミ箱などを探す(入れ歯はティッシュに包まれて捨てられてしまうこともあります)
  • 見つからないときは、管理者に報告し、本人・家族に説明する
  • 盗難の疑いがあるときは、施設内だけで済ませず、警察への相談や、虐待の疑いとして市町村への通報を検討する

⑤ 職員の「困りごと」に目を向ける

今回も、朝霞の件も、背景には職員自身のお金の問題(借金・ギャンブル)が語られています。もちろん、それで許されることではありません。ただ、職員が一人で抱え込まないよう、管理者が日ごろから声をかけられる関係をつくっておくことも、遠回りに見えて予防の一つだと思います。

訪問系の事業所では

訪問介護・居宅介護でも、入れ歯の洗浄や、眼鏡・補聴器の手入れをする場面はあります。利用者さんの家の物は、利用者さんの財産です。

  • 物を動かしたら、元の場所に戻す
  • 「見当たらない」と言われたときに、記録で説明できるようにしておく

金銭や通帳の扱いは「金銭・通帳・貴重品の預かりを頼まれたとき」で詳しくまとめています。

研修の準備に

ふくしノートでは、今回の内容を職員と確認するための研修資料を用意しています。

まとめ

  • 長崎県南島原市の老人介護施設で、元職員が金歯を目当てに入居者さんの入れ歯を盗んだ疑いで逮捕されました
  • 入れ歯・補聴器・眼鏡なども、利用者さんの大切な財産です。盗る行為は経済的虐待にあたり、見つけた職員には市町村への通報義務があります
  • 「何を預かっているか一覧にする」「誰でも触れる場所に置かない」「毎日そろっているか確かめる」「なくなったときの対応を決める」を見直しましょう
  • お金の預かりについては、朝霞のグループホームの件をもとにした記事もあわせてご覧ください

以下は私の考えです。入れ歯は、毎日のケアで当たり前のように触るものだからこそ、「財産」という意識が薄れやすいのだと思います。利用者さんの物を利用者さんの物として大切に扱うこと。その当たり前を、仕組みと研修で支えていくことが、利用者さんの尊厳を守ることにつながると考えています。

本記事は、公開されている報道をもとに一般的な内容を整理したものです。最新かつ正確な内容は、各省庁・自治体の公式資料をご確認ください。

この記事のテーマで使える資料