行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

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転倒は防げなくても責任は残る:送迎後の「痛み」を放置した通所介護に賠償を命じた裁判例

こんにちは、ぺーさんです。

事故の裁判というと、「事故を防げたかどうか」ばかりが注目されがちです。しかし、事故が起きてしまったあとの対応も、事業者の責任として問われます。

今回の「判例シリーズ」第6回は、送迎車から降りるときに利用者さんが転倒し、骨折していたのに、翌朝まで適切な医療を受けられなかった事案です。通所介護の裁判例ですが、放課後等デイサービスや生活介護など、送迎のある障害福祉サービスにも当てはまります。

事案の概要

東京地方裁判所の平成25年5月20日判決です。

  • 利用者は87歳の女性で、通所介護(デイサービス)を利用していました
  • 午後4時ごろ、宿泊のための施設へ移動するために送迎車両に乗り、降りようとしたときに転倒し、右大腿骨頸部を骨折しました
  • 施設の職員は、けがの有無を確認しないまま、翌朝まで様子を見ていました
  • 翌日になって病院に搬送され、骨折と診断されました

裁判所の判断

裁判所は、2つの点を分けて判断しました。

① 転倒そのものの過失は認めなかった 利用者さんは要介護1で、自力で歩ける状態でした。施設内での転倒歴もなく、送迎車の乗り降りで転ぶことを具体的に予見するのは難しかったとして、転倒を防ぐ義務の違反は否定されました。

② 事故後の医療措置についての義務違反は認めた 職員は、利用者さんの痛みが続いている状態を認識していました。それなのに、医師に状態を説明して指示を受けるという、容易にできることをしませんでした。その結果、翌朝まで骨折に対する適切な治療を受けられず、肉体的・精神的な苦痛を受けたとして、慰謝料20万円の支払いが命じられました。

ここが大事なポイント

金額は20万円と大きくありません。しかし私は、次の点でとても重要な判決だと考えています。

「事故を防げなかった」ことと、「事故のあとに適切に対応したか」は、別々に問われます。

今回、事業者は転倒については責任を問われませんでした。それでも、事故のあとに医療につなげなかったことは責任を問われています。「防げなかったから仕方ない」では済まず、事故後の対応そのものが責任の対象になるということです。

事業所が整えておきたい「事故後の対応」

以下は判決そのものではなく、私の実務経験にもとづく考えです。

1. 「痛みの訴え」は受診の目安として扱う 利用者さんが痛みを訴えている、いつもと様子が違うといったときは、見た目にけががなくても、看護職員や医師に相談する。この基準を決めておくと、職員が迷いません。

2. 判断を一人で抱えさせない 夜間や少人数の場面では、職員が「大丈夫だろう」と判断してしまうことがあります。管理者や看護職員、協力医療機関に連絡できる体制を作っておきます。

3. 送迎後、送迎車から降りたあとの確認まで手順にする 降車後にふらつきがないか、痛みを訴えていないかを確認し、記録に残す。ここまでを手順書に入れておきます。

4. ご家族・自治体への連絡を早めに 事故が起きたら、ご家族への連絡、市町村への報告、記録の作成が必要です。運営基準でも、事故発生時の対応と記録が求められています。

5. 事故直後の記録を残す いつ、誰が、何を確認し、どう判断したかを、時系列で残しておきます。後から「対応した・していない」が争いになったときの、大切な根拠になります。

まとめ

日頃の事故予防に力を入れることはもちろん大切です。そのうえで、「起きてしまったときにどう動くか」まで決めておくことが、利用者さんを守り、事業所を守ることにつながります。まだ手順を作っていない事業所さんは、今日から一枚の紙にまとめてみてください。

本記事は、公開されている判例解説などをもとに事案を整理した一般的な情報提供です。判決原文のすべてを確認したものではなく、個別の事案については弁護士などの専門家にご相談ください。

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