金銭・通帳・貴重品の預かりを頼まれたとき:買い物代金の精算ルールと、社協・成年後見への橋渡し
こんにちは、ぺーさんです。
「こんなときどうする?シリーズ」の第3回は、金銭・通帳・貴重品の預かりを頼まれたときです。
前回は保険外・サービス範囲外の依頼をされたときを取り上げました。お金の話は、頼まれる側の善意があっても、あとから「なくなった」「使われた」という疑いを招きやすく、ヘルパー本人を守るうえでも、事前のルールが欠かせません。
場面(仮想の例です)
たとえば、次のような場面です。実際にあった話ではなく、説明のための仮想の例です。
「暗証番号を教えるから、通帳とキャッシュカードで生活費をおろしてきて」。別の日には、「印鑑と通帳を、あなたのところで預かっておいて」。買い物の日には、「お釣りは取っておいて」と千円札を数枚渡されます。
結論:預かりは事業所のルールで判断し、根本の困りごとは別の仕組みへ
次の3つの流れをおすすめします。ここは法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。
- 通帳・印鑑・キャッシュカード・暗証番号は、ヘルパーが個人では預からない(事業所として預からないルールを決めておく)
- 買い物代金は、その場で決めた方法ではなく、事業所と所轄の自治体が定めたルールの範囲で、記録を残して扱う
- 「お金の管理が不安」という本題は、社会福祉協議会(社協)や成年後見制度など、別の仕組みにつなぐ
根拠:確認できたことと、確認できなかったこと
確認できなかったこと
訪問介護の運営基準や老計第10号などで、通帳や印鑑の預かりの可否・手続きを直接定めた条文を、私が確認した範囲では見つけられませんでした。そのため、「法令で一律にこう決まっている」とは書けません。事業所のルールと、所轄の自治体の指導内容が判断の軸になります。障害福祉サービス(居宅介護、重度訪問介護、移動支援など)も、自治体の扱いを確認してください。
資料で確認できた実務の考え方
- ある県のホームヘルパー協議会の手引きには、通帳・カード類は預かれないこと、金融機関にはご本人と同行して、その場で引き出しや預け入れをするのは可とされていることが書かれています。買い物代行では、訪問して品物を確認し、代金を預かってから買い物に出る手順が示されています。1つの資料の記載ですので、こうした運用をしている団体がある、という位置づけで読んでください。
- ある県の資料(施設等の預り金の取扱い)では、預かる場合の仕組みとして、通帳と印鑑を別々の保管責任者が管理して同一の職員にしないこと、出納台帳をつけること、年に4回程度、書面で報告して署名などで確認を受けることなどが示されています。これは施設系を主に想定した資料で、訪問系への適用は明記されていません。「預かるなら、これだけの内部牽制が必要になる」という参考として読むのが適切です。
- 高齢者虐待防止法では、高齢者の財産を不当に処分することなどが、経済的虐待とされています。自治体の資料では、訪問介護は居宅サービス事業として、養介護施設従事者等による虐待の対象に含まれるとされています。金銭の扱いは、疑いをもたれないための配慮にも直結します。体制の整え方は、障害福祉サービスの虐待防止体制もご覧ください。
別の仕組み:日常生活自立支援事業
厚生労働省の資料によると、日常生活自立支援事業は、認知症の高齢者、知的障害者、精神障害者などのうち、判断能力が不十分な人が地域で自立した生活を送れるよう支える事業です。都道府県・指定都市の社会福祉協議会が実施し、市町村の社協などが窓口を担っています。
- 対象:判断能力が不十分で、かつ、この事業の契約内容を判断できる能力がある人
- 援助内容:福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理(預金の払い戻し、預け入れの手続きなど)、書類等の預かり(通帳、年金証書、実印など。全国社会福祉協議会の資料による)
- 利用には社協との契約が必要で、相談は無料、サービスの利用には利用料がかかるとされています。料金は実施主体で異なります
別の仕組み:成年後見制度
厚生労働省の「成年後見はやわかり」では、成年後見制度は、判断能力に不安のある人を法的に支える制度で、家庭裁判所が選ぶ法定後見(後見・保佐・補助)と、あらかじめ本人が選んでおく任意後見があるとされています。同サイトでは、相談窓口も案内されています。全国社会福祉協議会の資料には、判断能力が低下して契約が難しくなった場合は、成年後見制度の利用につなぐ、という整理があります。
どちらの制度を使うかは、ご本人の判断能力の状態などで変わり、私たちが決めることではありません。橋渡しに徹し、判断は社協・自治体の窓口・専門家に任せます。
現場での動き方
断り方の例(仮想の会話)
「ご心配ですよね。ただ、ヘルパーが個人でお預かりするのは、事業所の決まりでできないことになっているんです。お金のことでお困りのようなので、ケアマネさんや社会福祉協議会に、お金の管理を手伝ってくれる制度がないか、相談してみませんか。事業所からも連絡します」
買い物代金の精算の流れ(仮想の例)
買い物を行う場合は、事業所のルールとして、次のような流れを決めておく方法が考えられます。以下は私の考えで、金額の上限や書式は、所轄の自治体と事業所で確認して決めてください。
- 訪問時に、利用者さんと一緒に買うもの・予算を確認する
- 代金を預かる。その場で、利用者さんと金額を確認する
- 買い物を終えたら、レシートを添えて、お釣りとあわせて利用者さんの前で確認する
- 金銭出納帳に記入し、利用者さんにサインをもらう(難しい場合は、ご家族の確認やサ責の確認で補う)
- サ責が、月ごとに出納帳とレシートを照合する
| 日付 | 預かった額 | 購入内容 | 使った額 | お釣り | 利用者確認 | ヘルパー | サ責確認 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 〇/〇 | 3,000円 | 食料品 | 2,480円 | 520円 | サイン | 印 | 印 |
立替は、金銭トラブルのもとになりやすいので、ヘルパー個人の立替は行わない、事業所として立替も行わない、と決めておく方法が考えられます。
記録と報告
頼まれた日時、内容、断った理由、案内した先を記録し、サ責・管理者に報告します。ケアマネジャー(相談支援専門員)にも共有し、社協や後見の相談につなげます。金銭の紛失や差異が出たときは、その日のうちに管理者へ報告し、自治体への報告の要否は所轄に確認します。
事業所として整えておくこと
- 「通帳・印鑑・カード・暗証番号は預からない」を、契約書や重要事項説明書に書く
- 買い物代金の預かりについて、上限額、封筒の使い方、レシートの扱い、確認の方法、記録様式を文書にする
- 例外を認める場合の承認者(管理者)と、承認の記録の様式を決めておく
- 新人研修で、断り方の例と、出納帳の書き方を練習する
- 社協、地域包括支援センター、相談支援事業所などの連絡先を一覧にしておく
まず今日からできること3つ
- 現在の金銭の取扱いルールが文書になっているかを確認し、なければ「預からないもの」の一覧から作る
- 金銭出納帳とレシートの照合を、月1回の作業として決める
- 地域の社会福祉協議会(日常生活自立支援事業の窓口)の連絡先を調べ、事業所に貼る
まとめ
お金の預かりは、ヘルパー個人の善意ではなく、事業所のルールと記録で守るものだと考えています。そして、預かってほしいという声の裏にある「お金の管理が不安」という本題は、社協や成年後見の仕組みにつなぐのが、私たちの役割です。次回は第4回「訪問したら利用者が倒れていた」を取り上げます。
本記事は、公開されている資料をもとに一般的な内容を整理した情報提供です。制度の最新の扱いや個別の事案については、所轄の自治体や専門家にご確認ください。