患者さんの無断撮影・SNS投稿、1週間で3件。「ルールを決めた」だけでは防げない理由と、福祉事業所が次にやること
こんにちは、ぺーさんです。
先週、「利用者さんの無断撮影・SNS投稿で謝罪の事例。福祉事業所が今すぐ決めたい5つのルール」という記事を書きました。その直後から、同じような報道が続いています。
この1週間ほどで、看護師が入院患者さんを無断で撮影し、SNSに投稿していたとして病院が謝罪した、という報道が3件ありました。医療の現場の話ですが、利用者さんとの距離が近い福祉の現場にとっても、決して他人事ではありません。
今回は、続いた報道に共通する点を整理したうえで、「ルールを決めただけでは防げない理由」と、前回の5つのルールに加えて取り組みたいことを考えます。
※本記事は報道されている範囲の概要に触れるのみで、個別の事案の詳細には立ち入りません。
1週間で報じられた3件
千葉西総合病院(千葉県松戸市) 10月9日の報道によると、看護師らが勤務中に入院患者さんを無断で撮影したり、院内で自撮りしたりした動画をSNSに投稿していました。動画には「まじ暇」「つまんねえ」といった文字が付けられていたとのことです。関わった看護師3人は「自分たちの間だけでアップロードしていた。外に出してはいない」という趣旨の説明をしていると報じられています。前回の記事で取り上げたのは、この件です。
JR札幌病院(札幌市) 10月13日、JR北海道が運営するJR札幌病院の看護師が、入院患者さんを撮影した動画や画像をSNSに投稿していたことが発表されました。病院は患者さんと家族に謝罪し、事実関係の確認を進めていると報じられています。
医誠会国際総合病院(大阪市北区) 10月16日の報道によると、今年7月、看護師が勤務中に患者さんの様子を複数回撮影し、動画をSNSに投稿していました。院内での撮影は禁止されていましたが、動画には患者さんが医療行為を拒む様子や、看護師が患者さんの前髪を切り、その反応を笑う様子などが含まれていたとのことです。看護師は処分を受けた後に退職し、運営法人は患者さんと家族に謝罪したと報じられています。
3件に共通していること
報道されている範囲で見ると、3件には次のような共通点があります。
- 勤務中に撮影されている
- 院内での撮影は、もともと禁止されていた(千葉西・医誠会の報道で明記)
- 「仲間内だけ」のつもりでも、外に広がっている
- 患者さんを「笑い」や「ネタ」として扱っている
ここで大事なのは、2つめの点です。どの病院にも、撮影を禁止するルールはありました。それでも起きてしまったのです。
「ルールを決めた」だけでは防げない理由
1. 「仲間内なら大丈夫」という思い込み
限定公開や、フォロワーを絞ったアカウントなら外には出ない——そう考えてしまいがちですが、スクリーンショットや画面録画で、投稿は簡単に外へ持ち出せます。一度でも誰かの手に渡れば、もう取り消せません。
2. 利用者さんを「ネタ」として見てしまう感覚のずれ
毎日一緒に過ごしていると、利用者さんの言動を「面白い」「かわいい」と感じる場面があります。その気持ち自体は自然なものですが、それを撮って笑いの材料にした瞬間、相手は「支援する人」から「見せ物」に変わってしまいます。本人の同意なく、本人が知らないところで笑われる——これは、尊厳を深く傷つける行為です。
3. 「禁止」は知っていても、「なぜダメか」が腹に落ちていない
「撮影禁止」というルールだけでは、「バレなければいい」「これくらいなら」という気持ちを止めきれません。なぜダメなのか、利用者さんにとって何が問題なのかを、職員一人ひとりが自分の言葉で理解していることが大切です。
福祉の現場に置き換えて考える
医誠会の件で報じられた「前髪を切って、その反応を笑う」という行為を、福祉の現場に置き換えてみてください。
障害福祉・介護保険の事業所で、職員が利用者さんを笑いものにしたり、人格をおとしめるような扱いをしたりすることは、虐待防止の観点からも見過ごせない行為です。どの行為が虐待にあたるかは個別に判断されますが、利用者さんの尊厳を傷つける行為は、心理的虐待にあたる可能性があります。
また、障害者虐待防止法・高齢者虐待防止法では、施設や事業所の職員による虐待を受けたと思われる利用者さんを見つけた人には、市町村への通報義務があります。「同僚の投稿を見てしまった」とき、見て見ぬふりはできない、ということも職員に知っておいてもらう必要があります。
前回の5つのルールに加えて、次にやること
前回の記事では、次の5つのルールを紹介しました。
- 利用者さんの撮影・録音は原則禁止
- 業務中の私物スマホの扱いを決める
- SNSへの業務に関する投稿を禁止する
- 入職時に誓約書を取り、年1回は研修で確認する
- 違反したときの対応を決めておく
まだ決めていない事業所は、まずここから始めてください。そのうえで、今回の報道を踏まえて、次の3つを加えることをおすすめします。
① 「限定公開・仲間内でもNG」を、具体例で伝える
「SNS投稿禁止」とだけ伝えるのではなく、次のような具体例をあげて、はっきり伝えます。
- 鍵アカウント、親しい友達だけに公開、ストーリーズ(24時間で消える投稿)もNG
- 職員同士のグループLINEに、利用者さんの写真や動画を送るのもNG
- 顔を隠していても、声・部屋・持ち物で特定されることがある
「どこまでがダメなのか」をあいまいにしないことが、いちばんの予防になります。
② SNSの研修を、虐待防止・個人情報の研修とつなげる
SNSのルールは、それだけで独立した話ではありません。
- 利用者さんの尊厳を守る → 虐待防止の研修
- 利用者さんの情報を守る → 個人情報保護・秘密保持の研修
この2つとつなげて伝えると、「撮影禁止」が「バレたら怒られるルール」ではなく、「利用者さんを守るための約束」として伝わりやすくなります。年1回の虐待防止研修の中で、SNSの事例を取り上げるのも効果的です。研修の回し方は「虐待防止研修の準備に丸1日かけていませんか?」で紹介しています。
③ 気づいた職員が、言い出せる仕組みをつくる
報道によると、千葉西総合病院の件は外部からの連絡で、JR札幌病院の件はインターネット上に投稿が出回っていることで発覚しました。職場の中で誰かが気づき、声をあげられていれば、もっと早く止められたかもしれません。
- 「おかしい」と思ったら、管理者や虐待防止担当者に相談してよい、と明言しておく
- 相談した職員が不利益を受けないことを約束する
- 虐待防止委員会の議題として、SNSのトラブル事例を定期的に取り上げる
委員会の進め方は「虐待防止委員会の進め方:構成員・議題・議事録」で詳しく解説しています。
ルールと研修の準備に
ふくしノートでは、今回の内容をそのまま実践するための雛形と研修資料を用意しています。
- 「SNS利用ガイドライン+誓約書セット」:前回の記事の5つのルールに沿った、ガイドラインと誓約書の雛形(Word・記入例つき)
- 「虐待防止・身体拘束適正化研修 研修資料セット」:研修資料・理解度確認テスト・受講記録簿の3点セット
- 「個人情報保護・秘密保持研修 研修資料セット」:個人情報・守秘義務の研修を、記録まで残して実施できます
まとめ
- 1週間で3件、医療機関で患者さんの無断撮影・SNS投稿が報じられました
- どの病院にも撮影禁止のルールはありましたが、それでも起きています
- 「仲間内なら大丈夫」という思い込みと、利用者さんを「ネタ」として見てしまう感覚のずれが背景にあります
- ルールを決めたうえで、「具体例で伝える」「虐待防止・個人情報の研修とつなげる」「言い出せる仕組みをつくる」の3つを加えましょう
以下は私の考えです。こうしたニュースが続くと、「うちの職員に限って」と思いたくなります。でも、報道された病院にもルールはありました。大切なのは、ルールを作って終わりにせず、「なぜダメなのか」を職員と一緒に何度でも確認することだと思います。利用者さんを守ることは、職員を守ることにも、事業所を守ることにもつながります。
本記事は、公開されている情報をもとに一般的な内容を整理したものです。最新かつ正確な内容は、各省庁・自治体の公式資料をご確認ください。
参考にした資料
- 熊本日日新聞(共同通信配信)「看護師が不適切動画をSNS投稿 千葉西総合病院、患者を無断撮影」(2026年10月9日)https://kumanichi.com/articles/2044836
- 北海道新聞「JR札幌病院の看護師、入院患者をSNS投稿 動画や画像『面白半分で』」(2026年10月13日)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1388763/
- 読売テレビ(Yahoo!ニュース)「患者の前髪を切り反応を笑う…看護師が無断撮影しSNS投稿 院内禁止の勤務中に複数回 大阪市北区の病院」(2026年10月16日)https://news.yahoo.co.jp/articles/6082ef581040fbdb70c7d2b6f45ef1ddcb7c3112