行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

現場の管理

訪問したら利用者が不在・応答がないとき:安否確認の初動と、記録・請求の考え方

こんにちは、ぺーさんです。

「こんなときどうする?シリーズ」の第5回は、「訪問したら利用者が不在、または応答がない」場面です。

たとえば、次のような場面です(仮想の例です)。

朝9時の訪問。インターホンを押しても返事がない。ノックしても物音がしない。電話にも出ない。前回の訪問では、いつもどおり話ができていた。

出かけているだけかもしれません。でも、室内で倒れているかもしれません。どこまで確認して、誰に連絡し、いつ119番や110番を考えるのか。判断の基準がないと焦ります。今回は、確認できたことを整理したうえで、初動の流れと事業所で決めておくことを書きます。

結論:まず、この3つ

  1. 一人で抱え込まず、その場から事業所(サービス提供責任者・管理者)に連絡する
  2. 異変の手がかりがあれば、迷わず119番・110番を検討する
  3. 鍵や窓から勝手に入らない。入る場合は、事業所の手順と、家族・警察・消防などとの連携のもとで行う

制度・基準の整理

運営基準で確認できたこと(介護保険の訪問介護)

指定居宅サービス等の基準(厚生省令37号)で確認できた内容です。障害福祉サービスは、指定基準の該当条文を別途確認してください。

条文 内容
第29条(運営規程) 運営規程に定める項目に「緊急時等における対応方法」がある
第27条(緊急時等の対応) 訪問介護員等は、現にサービスの提供を行っているときに利用者に病状の急変が生じた場合などに、速やかに主治の医師への連絡を行う等の必要な措置を講じる
第37条(事故発生時の対応) 事故が発生した場合は、市町村、利用者の家族、居宅介護支援事業者等に連絡し、必要な措置を講じる。事故の状況と処置を記録する
第19条(サービス提供の記録) 提供した日・内容を記録する

第27条の対象は「現にサービスの提供を行っているとき」なので、玄関前で応答がない場面には文言のうえでは当てはまりません。ただ、誰に連絡するかを決めておくという考え方の土台にはなります。また、兵庫県の重要事項説明書・契約書のガイドラインには、緊急時に家族や医師へ連絡するなど、事業者が行うことの具体的な内容を記載する旨の記述があります。

立ち入りと通報について

警察官職務執行法の第4条・第6条では、人の生命や身体、財産に危害が切迫した場合に、警察官等が、やむを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度で他人の建物に立ち入ることができるとされています。これは警察官等の権限の規定で、事業所の職員が自分の判断で開錠して入ってよい根拠ではありません。

ある市の資料でも、警察官が自宅内に入る場面では、可能な限り親族に確認し、立ち会いを求めるのが適切とされていました。国土交通省の資料にあるマンション管理向けの安否確認マニュアルの例では、呼びかけや近隣への確認、緊急連絡先・親族への連絡を経て、預かり鍵での室内確認は原則2名以上で行い、異常があれば警察に通報する流れが示されています。住宅管理の例ですが、手順を考える参考になります。

119番については、消防庁の資料に、意識がない(返事がない)、呼吸が苦しいなどが、すぐに通報する目安として示されています。迷うときの相談窓口として「#7119」(救急安心センター事業)がありますが、実施地域は自治体によって異なります。

サービスを提供できなかった場合の請求

「訪問したが不在で、サービスを提供できなかった場合」の算定について、全国共通で明示した通知やQ&Aは、私が調べた範囲では見つけられませんでした。

  • 千葉市の障害福祉サービスのQ&Aに、居宅介護・重度訪問介護で本人が不在の間に部屋を掃除する場合は、安否確認等も含むため、本人不在では報酬算定の対象とならないという回答があります。ただし「不在中にサービスを行う」場合の回答で、「訪問したが会えなかった」場合そのものではありません。
  • サービスを提供していないのに提供したように記録して請求することは、不正請求(架空・水増し)です。青森県の資料には、指定取消となった事例が載っています。
  • キャンセル料については、兵庫県のガイドラインに、前営業日の○時までに連絡があれば取消料は徴収しない、徴収する場合でも利用者負担額を超えないことが望ましい、という趣旨の記載があります。

つまり、「提供していないものは請求しない」が大原則であり、それ以外の細かい扱いは、サービスの種類や自治体で違い得るということです。算定の可否、キャンセル扱い、取消料の可否は、契約書・重要事項説明書の定めと、所轄の自治体(介護保険担当・障害福祉担当)の案内で確認してください。

現場での動き方

ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。

初動のステップ

段階 やること ポイント
1 呼びかけ・電話 インターホン、ノック、声かけ、利用者の電話への連絡。ドアや窓を無理にのぞき込まない
2 事業所へ連絡 状況を伝え、以降はサ責・管理者の指示に従う。「見た事実」をそのまま伝える
3 予定の確認 サ責が、通院・通所・外出の予定、前回の様子、ケアマネからの情報を確認する
4 家族・緊急連絡先・ケアマネへ 事業所から連絡する。状況によっては、管理会社や大家にも
5 緊急性の判断 下の表を参考に、119番・110番を検討する
6 待機・立ち会い 家族や警察・消防が到着するまで待つ。到着後は指示に従う
7 記録 時刻ごとの経過を残す

何分で事業所に連絡するかは、事業所のルールとして決めておくと迷いません。

緊急性を考える手がかり

一つでも当てはまるときは、事業所にすぐ相談してください。

  • 室内から、うめき声・物音・呼びかけへの反応が聞こえる
  • 玄関が施錠されておらず、呼びかけても返事がない
  • 郵便物や新聞がたまっている、電気がつけっぱなしになっている
  • 前回までに体調不良や転倒があった、独居で持病や認知症がある

生命に関わる状況が疑われるときは、事業所への連絡と並行して、迷わず119番を考えてください。事件性が疑われるときは110番です。「もし何でもなかったら」と遠慮しなくてよいという考え方を、事業所全体で共有しておくことが大切だと私は考えます。

鍵の扱い

事業所が鍵を預かっていても、応答がないときに開錠してよいかは、契約・同意書での取り決めと事業所の手順によります。

  • 預かり鍵を使う条件(誰の指示で、誰が立ち会うか)を、あらかじめ契約時に説明し、同意を得ておく
  • 一人では開けず、家族・管理会社・警察官等の立ち会いのもとで行う
  • 使ったことは、必ず記録に残す

鍵の預かり方は、最終回の第8回で取り上げます。

記録の仮想例

仮想の記録例です。「見たこと・聞いたこと」と「した対応」を分け、推測は書きません。

時刻 事実・対応
9:00 訪問。インターホン・ノック・電話(9:03)に応答なし。玄関は施錠。室内から物音は聞こえない
9:05 事業所(サ責)に連絡。以降はサ責の指示
9:10 サ責がケアマネと家族に連絡。家族が向かうとのことで、現場で待機
9:45 家族到着。立ち会いのもと確認(以降の対応は別紙に記載)

「サービスは提供していない」という事実をはっきり書くことは、請求との関係でも大切です。

事業所として整えておくこと

  • 「応答なし」対応フローをA4一枚で作る:連絡先、判断する人、119番・110番の目安、待機の基準を入れる
  • 緊急連絡先の一覧:家族、ケアマネ、かかりつけ医、管理会社など。年1回は更新する
  • 契約書・重要事項説明書・同意書:緊急時の連絡先、預かり鍵の使用条件、不在・キャンセル時の取扱いを書いておく
  • ハイリスクの利用者の把握:独居、認知症、重い持病がある方は、訪問時の確認事項を個別に決めておく
  • 研修:ロールプレイで練習し、第4回の急変時の対応とあわせて見直す
  • 事故報告の範囲:自治体で異なるため確認する。事故対応の基準や記録は、ヒヤリハットが出てくる職場づくりもどうぞ

まず今日やること3つ

  1. 利用者ごとの緊急連絡先(家族、ケアマネ、管理会社など)が、最新かを確認する
  2. 「応答がないとき」の連絡の順番を、一枚の紙にまとめて全員に共有する
  3. 契約書・重要事項説明書の、不在・キャンセル・緊急時の記載を読み直し、自治体の案内と照らし合わせる

まとめ

応答がないときの初動は、「一人で判断しない」「勝手に入らない」「迷ったら119番・110番」に尽きると私は考えています。そのためには、緊急連絡先・フロー・記録の仕組みが必要です。請求は「提供していないものは請求しない」を守り、細かい扱いは自治体に確認してください。

次回の第6回は、「虐待の疑いに気づいたとき」を取り上げます。

本記事は、公開されている資料をもとに一般的な内容を整理した情報提供です。制度の最新の扱いや個別の事案については、所轄の自治体や専門家にご確認ください。

参考にした資料