行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

現場の管理

障害者の性と、ヘルパーとの境界線。訪問介護の現場から考える「性欲は当たり前、でも向ける先は違う」

こんにちは、ぺーさんです。

先日、ある障害当事者の方が「障害者の性処理も福祉として検討すべきではないか」とSNSに投稿し、大きな議論になりました。数千万回も表示され、賛否どころか、心ない誹謗中傷まで飛び交う事態になっています。

私は訪問介護事業所を運営しながら、自分自身も現場でヘルパーとして利用者さんのご自宅に伺っています。居宅介護や重度訪問介護で、入浴や排泄の介助をさせていただくことも日常です。

だからこそ、この話題は他人事ではありません。今回は特定の方を批判するためではなく、現場に立つ一人の支援者として、そして一人の男性として感じたことを、3つの視点に分けて書いてみたいと思います。

結論を先にお伝えすると、私の考えは次の3つです。

  1. 障害者にも性欲はあって当たり前
  2. ただし、仕事として支えてくれるヘルパーをそういう目で見るのは違う
  3. 性の悩みの解決は、ヘルパー以外のルートで考えるべき

第1章 障害者にも性欲はあって当たり前

まず大前提として、障害があってもなくても、人間には性欲があります。これは食欲や睡眠欲と同じく、ごく自然なものです。

今回の議論では「障害者のくせに」「生かしてもらっているだけでありがたいと思え」といった言葉まで見かけました。こうした発言ははっきり間違っていますし、人として許されるものではありません。体が動かないことと、心や欲求があることは、まったく別の話です。

たとえば筋力が少しずつ落ちていく病気の方の中には、知能や感覚、体の生理的な働きは健常者と変わらない方もたくさんいらっしゃいます。体が思うように動かない分、自分で欲求を処理できないもどかしさは、私たちが想像する以上に大きいはずです。

現場で支援をしていると、利用者さんが「恥ずかしい」「情けない」という気持ちを抱えておられる場面にも出会います。下着の着替えひとつとっても、他人に見られることへの抵抗感は当然あるものです。その気持ちを想像できる支援者でありたいと、私自身も思っています。

ですから、障害当事者が性の悩みを口にすること自体は、まったく悪いことではありません。むしろ、これまでタブー視されてきたテーマだからこそ、声を上げることには意味があると思います。

第2章 ただし、ヘルパーを「そういう目」で見るのは違う

ここからが、私が一番お伝えしたいことです。性欲があること自体は自然なことです。しかし、仕事として支援に来てくれているヘルパーを性的な目で見たり、それを匂わせたりするのは、まったく別の問題だと考えています。

健常者に置き換えて考えてみる

私は健常者ですが、自分に置き換えて考えてみます。毎日通っているコンビニの女性店員さんに、私が下心を持って話しかけていたらどうでしょうか。マッサージ店の女性スタッフに対して、施術中にそういう気持ちを抱いて接していたらどうでしょうか。

おそらく多くの方が「気持ち悪い」と感じるはずです。そして、それは当然の感覚だと思います。相手は仕事として、誠実にサービスを提供してくれているだけなのですから。

つまり、これは障害の有無の話ではありません。障害者だから許されないのではなく、誰であっても同じ基準で考えるべきことなのです。障害者を特別扱いしないからこそ、同じ線引きが必要になります。

心の中に秘めておく分には問題ない

誤解のないようにお伝えしておくと、心の中で誰かに好意や欲求を抱くこと自体を否定するつもりはありません。それを内に秘め、相手に悟られず、不快にもさせないのであれば、何の問題もないと思います。

問題になるのは、それが言動に表れたときです。セクハラまがいの冗談を言って相手の反応を楽しんだり、下心を持って接したりするのは、明らかに一線を越えています。同じ男として、気持ちそのものは十分に理解できます。それでも、相手を不快にさせた時点でアウトです。

身内の話として

実は、私の身内の一人にも、生まれつきの身体障害がある男性がいます。現在は一人暮らしをしていて、1日に何度もヘルパーさんに来ていただきながら生活しています。

その彼が以前、女性ヘルパーさんに対してセクハラにあたる発言をしてしまい、そのヘルパーさんから「今後の担当はお断り」となったことがありました。話を聞く限り、一つひとつはそこまで重い発言ではなかったようです。ただ、同じような発言を毎回のように繰り返していたため、ヘルパーさんは限界だったそうです。

彼は生まれつきの障害もあり、恋愛の経験はほとんどありません。仕事だとわかっていても、自分に優しくしてくれる女性に淡い期待を抱いてしまうのは、むしろ自然なことだと思います。正直に言えば、私が彼の立場だったら、同じ失敗をしてしまっていたかもしれません。

それでも、相手を不快にさせることは、障害の有無にかかわらず絶対にやってはいけないことです。一度の発言は軽く聞こえても、受ける側にとっては毎回積み重なっていきます。そして一度失った信頼は、簡単には戻りません。

近年は2023年の刑法改正で「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」が設けられるなど、相手の同意をめぐる社会の目は年々厳しくなっています。言葉によるセクハラも、相手との関係を壊し、トラブルにつながりかねません。社会の中で生活していく以上、こうしたリスクには常に気を配っておく必要があります。この点も、障害の有無は関係ありません。

ヘルパーの仕事は、より慎重な線引きが必要

ヘルパーの場合、コンビニやマッサージ店以上に、この線引きが大切になると私は考えています。理由は大きく3つあります。

  • 密室で1対1になる 利用者さんのご自宅という閉じた空間で、ほとんどの場合ヘルパーは一人で支援にあたります。ちょっとした匂わせでも、受ける側の恐怖感はまったく違います。
  • 体に直接触れる仕事である 入浴や排泄、更衣など、ヘルパーの仕事は利用者さんの体に触れることが前提です。だからこそ、お互いの信頼関係がなければ成り立ちません。
  • ヘルパーは断りにくい立場にある 関係を壊したくない、事業所に迷惑をかけたくないという思いから、嫌なことを言われても笑って受け流してしまうヘルパーは少なくありません。その「断りにくさ」につけ込むような言動は、決してあってはならないものです。

実際、介護の現場では利用者さんからのセクハラに悩み、仕事を辞めてしまう職員もいます。厚生労働省も介護現場のハラスメント対策を進めているほど、これは業界全体の深刻な課題です。事業所としての備えはハラスメント対策の記事でもまとめています。

支えてくれる人への侮辱になってしまう

ヘルパーは、利用者さんの「当たり前の日常」を守るために毎日現場へ向かっています。その人たちを性的な対象として見たり、年齢や性別で品定めしたりする言動は、日常生活を支えてくれている人たちへの侮辱だと私は思います。

そしてこうした言動は、本人だけでなく、真剣に性の問題と向き合おうとしている他の障害当事者の方々の声まで、届きにくくしてしまいます。

第3章 性の悩みは、ヘルパー以外のルートで解決を考える

では、自分で性欲を処理できない障害当事者の悩みは、どうすればいいのでしょうか。私は「欲求は認める。でも、ヘルパーにその役割を求めない」という前提で、別のルートを考えるべきだと思っています。

ヘルパーの仕事に性的介助は含まれていない

まず押さえておきたいのは、居宅介護や重度訪問介護などの障害福祉サービスは、入浴・排泄・食事などの介護や家事、生活全般の相談や助言を行うものだということです。性的な介助は、ヘルパーの業務には含まれていません。

もちろん、夢精などで汚れた下着の交換や陰部の清拭は、排泄介助や更衣介助の延長として普段から対応しています。ただ、それと性的な欲求そのものを満たすことは、まったく性質の違う話です。ここを混同してしまうと、現場で働くヘルパーを守ることができません。

すでにある民間の選択肢

日本にも、ヘルパー以外のルートはすでに存在します。

  • 射精介助の専門サービス 重度の身体障害がある男性を対象に、射精の介助を行う一般社団法人があります。スタッフへの身体接触の禁止など、提供する側の尊厳を守るためのルールが細かく定められており、費用は利用者の自己負担です。
  • 障害者向けの性風俗サービス 障害者専用のデリバリーヘルス(派遣型の性風俗店)や、車椅子の方などの受け入れに対応しているホテヘルもあります。介護職の経験があるスタッフが在籍するお店もあり、障害特性に理解のあるサービスを選ぶことができます。数はまだ少ないものの、性欲を満たす場はヘルパーではなく、こうした合法的なサービスに求めるのが本来の筋だと思います。
  • 自助具や福祉用具の活用 企業による自助具の開発も進んでいます。体の動きに制限があっても使える道具が増えれば、他人の手を借りずに済む場面も広がります。

もちろん、これらがすぐに誰でも使えるわけではありません。費用の問題、地域による偏り、移動や準備に介助が必要になることなど、ハードルがあるのも事実です。

本当に議論すべきこと

だからこそ、議論すべきなのは「ヘルパーにやってもらえるようにすること」ではなく、次のようなことではないでしょうか。

  • 重度の障害があっても使いやすい自助具や機器の開発を後押しすること
  • 性の悩みを安心して相談できる窓口や、性教育の機会を増やすこと
  • 一人暮らしなど、プライベートな時間と空間を確保しやすい自立生活を支えること

海外にも、障害者の性について相談や教育を公的に支援している国はあります。ただ、それは「公的にヘルパーが性的介助をする」という意味ではありません。支援する側とされる側、双方の人権が守られることが前提になっています。

性の悩みを抱える当事者の尊厳と、支援者の尊厳。どちらか一方を犠牲にするのではなく、両方を守る方法を考えることが大切だと私は思います。

おわりに

障害者にも性欲はある。これは当たり前のことで、誰かに否定されるものではありません。一方で、その欲求を、仕事として支えてくれているヘルパーに向けるのは違います。そして、性の悩みの解決は、ヘルパー以外のルートで真剣に考えていくべきです。

福祉は、利用者さんか支援者か、どちらか一方が我慢を強いられるものではありません。利用者さんも働き手も、お互いに安心していられる関係があってこそ成り立つものだと、私は現場で日々感じています。

今回の騒動を、誰かを叩いて終わりにするのではなく、「障害者の性」と「支援者の尊厳」の両方について考えるきっかけにできたらと思います。この記事が、当事者の方、ご家族、そして現場で頑張っているヘルパーの皆さんにとって、少しでも考えを整理するヒントになれば幸いです。