介護現場のハラスメント対策——2026年10月のカスハラ義務化を前に、指針・相談窓口・委員会をどう整えるか
介護事業所における職場内ハラスメント(パワハラ・セクハラ等)への対応は、令和3年度の介護報酬改定ですでに義務化されています。それに加えて、2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法により、利用者・家族等からの「カスタマーハラスメント」への対応も、介護事業所を含むすべての事業主に義務付けられます。運営規程や重要事項説明書への記載も求められる見込みで、指定申請・運営指導の場面でも今後さらに確認が厳しくなっていくと考えられます。今回は、私自身の事業所での運用例を交えながら、押さえておきたいポイントを整理します。
ハラスメント対策委員会の設置と運営
うちの事業所では、ハラスメント防止対策委員会を年2回(6月・12月)開催しています。構成員は代表者・管理者・サービス提供責任者の3名で、開催頻度・構成員ともに、事業所の規模に見合った最小限の体制です。
大事なのは人数の多さではなく、「誰が委員会の構成員で、何を話し合うのか」を指針にきちんと明記しておくことです。委員会の役割としては、指針・マニュアルの整備、ハラスメントの認定、事案発生時の関係者対応・再発防止、職員研修・指導、防止の取組みの5点を定めています。開業直後で人員に余裕がなくても、この5つの役割さえ委員会に持たせておけば、形式的な体制は十分に整います。
相談窓口を「職場内」と「介護現場」の両方に用意する
うちの指針・マニュアルでは、ハラスメントを大きく2種類に分けて定義しています。
- 職場内におけるハラスメント:セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産・育児・介護等に起因するハラスメント
- 介護現場におけるハラスメント:利用者・家族等から職員への身体的暴力・精神的暴力・セクシュアルハラスメント(カスタマーハラスメントを含む)、および職員から利用者・家族等への行為
相談窓口は管理者を担当者として一本化し、電話番号とあわせて指針・マニュアルの両方に明記しています。相談を受けた後の流れも、別紙のフローチャートで「相談者→相談窓口(事業所担当者/法人本部)→事実確認・聴取→行為者や事業所への指導、または相談者への連絡→改善状況の確認」という形で可視化しておくと、誰が対応しても迷わず動けます。
あわせて、労働局の総合労働相談コーナーや、都道府県の男女共同参画センター、いのちの電話といった外部の相談窓口も一覧にしてマニュアルに載せています。事業所内の窓口だけでは相談しづらいケースもあるため、外部窓口の存在を職員に周知しておくことも重要なポイントです。
利用者・家族への周知も忘れずに
カスタマーハラスメント対策というと職員側の体制整備に目が行きがちですが、うちでは利用者・家族等にも契約時に次の点を周知しています。
- 事業所が行うサービスの範囲及び費用
- 職員に対する金品の心づけのお断り
- サービス提供時のペット保護(ゲージに入れる、首輪でつなぐ等)
- サービス内容に疑問や不満がある場合、または職員からハラスメントを受けた場合は気軽に管理者に連絡いただく旨
- 職員へのハラスメントを行わないこと
利用者側にも「ハラスメントをしない」という姿勢を事前に伝えておくことが、いざというときの毅然とした対応につながります。
指針に必ず盛り込むべき項目
指針・マニュアルの「記載内容」そのものも、運営指導で確認されるポイントです。最低限、次の項目は盛り込んでおく必要があります。
- ハラスメント防止に関する基本的な考え方
- ハラスメントの定義(職場内・介護現場の両方)
- 職場内におけるハラスメント対策(職員の責務・管理者の責務)
- 介護現場におけるハラスメント対策(利用者・家族等への周知を含む)
- 苦情・相談への対応(相談窓口・対策委員会の設置・秘密の保持・不服の申立て)
- 基本方針の見直しに関する事項
見出しだけ並べて中身が薄いものでは、運営指導で「実効性がない」と指摘されることがあります。相談窓口の連絡先や委員会の開催頻度など、具体的な数字・体制まで書き込んでおくことが大切です。
まとめ——ハラスメント対策で押さえる3点
- 委員会は年数回・少人数からでも構わないが、役割(指針整備・認定・再発防止・研修・取組み)を明確にし、指針に明記する
- 相談窓口は「職場内」「介護現場(利用者・家族からのハラスメント)」の両方に対応できるよう整備し、外部の相談窓口もあわせて周知する
- 利用者・家族に対しても、契約時にハラスメントに関する事業所の姿勢を周知しておく
2026年10月のカスハラ対策義務化を前に、指針・マニュアルの整備に着手する事業所も増えてくるはずです。とはいえ、職場内ハラスメントとカスタマーハラスメントの両方を過不足なくカバーした指針を一から作るのは、法律の専門家でなければなかなか骨の折れる作業だと思います。私の場合は行政書士であり、前職でも訪問介護・訪問看護に携わっていたため一人で作成できましたが、これは決して当たり前のことではありません。
書類整備に追われる開業期・改定対応期は、とにかく時間との勝負です。すべてを自分の力だけで揃えようとせず、お金で解決できる部分は解決して、ストレスを最小限にすることも選択肢の一つだと思います。
あわせて読みたい
- 障害福祉サービスの業務継続計画(BCP)——感染症・自然災害、訪問系事業所は何を整えればいいのか
- 障害福祉サービスの虐待防止体制——委員会・研修・指針をどう整えるか
- 介護事業所の感染症対策——指針・委員会・研修訓練は何をどこまで整えればよいか
指針・マニュアルの雛形が必要な場合は、私が実際の事業所で使用している内容をもとに作成した「ハラスメント防止対策 指針+マニュアルセット」も販売しています。よろしければご覧ください。
本記事は一般的な情報を整理したものであり、ハラスメント対策に関する具体的な義務内容や運営指導での確認方法は、サービス種別・自治体によって異なる場合があります。実際の指針・マニュアルの作成にあたっては、指定権者の手引きや専門家にご確認ください。