行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

現場の管理

ヒヤリハットが出てくる職場づくり:報告が上がらない理由と、書きやすい仕組み・事故時の基準

こんにちは、ぺーさんです。

今回は「マネジメントシリーズ」の第4回です。テーマは「ヒヤリハットが出てくる職場づくり」。

「ヒヤリハットの報告書が、ほとんど出てこない」。管理者やサービス提供責任者(サ責)のかたには、心当たりのある悩みではないでしょうか。報告が少ないのは、事故が少ないからとは限りません。訪問介護は一人で動く時間が長いので、「ヒヤリとした」出来事が本人の中で終わってしまいやすい仕事です。

まず制度の側で確認できることを整理し、そのあとで、報告が上がる職場の仕組みを考えてみます。

制度・基準の整理

ここは、e-Gov法令検索や厚生労働省などの公的資料で確認できた内容です。

事故発生時の対応(運営基準)

介護保険の訪問介護(指定居宅サービス等の基準37条)では、事故発生時について次のように定められています。

  • 事故が発生した場合は、市町村、利用者の家族、利用者に係る居宅介護支援事業者等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じる(1項)
  • 事故の状況と、事故に際して採った処置を記録する(2項)
  • 賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行う(3項)

障害福祉の居宅介護(指定障害福祉サービスの基準40条)も、ほぼ同じ構成です。連絡先は「都道府県、市町村、利用者の家族等」とされ、記録と損害賠償についても定めがあります。

なお、私が確認した37条・40条の条文には、「ヒヤリハット」という語は出てきません。条文が求めているのは、あくまで「事故」が発生した場合の対応です。

解釈通知で示されていること

厚生労働省の解釈通知には、条文に加えて次の点が示されています。

  • 事故が発生した場合の対応方法を、あらかじめ事業者が定めておくことが望ましい
  • 損害賠償保険に加入しておくか、賠償資力を有することが望ましい
  • 事故が生じた際には、原因を解明し、再発を防ぐための対策を講じる

運営指導の確認項目でも、市町村・家族・居宅介護支援事業者等への連絡状況、事故に際して採った処置の記録、損害賠償の実施状況がわかる文書が挙げられています。「連絡した」「記録した」を、あとから示せる状態にしておくということです。

事故報告の運用と標準様式

市町村などへの事故報告の細かい運用は、自治体ごとに異なります。国は、介護保険施設等の事故報告について標準様式を示しています(介護保険最新情報Vol.943、その後の様式見直しはVol.1332)。

  • 報告の対象は、死亡に至った事故と、医師の診断を受け、投薬や処置などの治療が必要となった事故。ほかの事故は、自治体の取扱いによる
  • 第1報は、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出する
  • 原因分析や再発防止策などは、作成次第あらためて報告する

この通知の主な対象は施設系のサービスですが、「その他の居宅等の介護サービスにおける事故報告においても可能な限り活用いただきたい」と示されています。訪問介護でも参考になります。

障害福祉サービスについては、自治体が手引きを出している例があります。たとえばある市の手引きでは、第一報は事故発生後速やかに、事故報告書はおおむね10日以内に提出することになっています。死亡や重傷などの場合は、電話連絡も必要です。期限や様式は自治体ごとに違うので、必ず所轄の自治体の案内を確認してください。

ヒヤリハットの位置づけ

厚生労働省が平成14年に示した「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取組指針」には、事故を未然に防ぐための指針や、事故が発生したときの対応指針とあわせて、個人の責任追及を行わない体制づくりが項目として挙げられています。ヒヤリ・ハット事例の報告・収集も、この分野の取組として扱われています。

実務のポイント

ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。

ヒヤリハットと事故報告の違い

ヒヤリハット 事故報告
内容 事故には至らなかったが、ヒヤリとした・ハッとした出来事 実際にけがや損害などが生じた出来事
目的 事故の芽をつみ、手順を見直す 事実の記録、関係先への連絡、再発防止
報告先 事業所内が基本 事業所内に加え、市町村や家族など(上記の基準)
報告の要否 事業所が自主的に決める 基準と自治体の定めによる

「ヒヤリハット」の正式な定義は、私が確認した基準の条文にはありません。事業所ごとに「どこからを報告対象にするか」を決めておくことが大切です。

報告が上がらない3つの理由

  1. 叱責を恐れる:「注意不足だ」と言われた経験があると、報告は減ります
  2. 書く手間が大きい:訪問の合間に長い書式を書くのは負担です
  3. 意味を感じない:出したのに何も変わらない、返事もない、という状態が続くと、誰も出さなくなります

つまり、報告が上がらないのは個人の意識の問題というより、仕組みの問題であることが多いと感じています。

報告しやすい書式の例

1件30秒で書けることを目標にします。以下は仮想の様式の例です。

項目 記入方法
いつ・誰の訪問か 日付、利用者名(イニシャルでも可)
何があったか 1〜2行
どんな場面か 選択式(移乗・入浴・調理・外出・服薬・その他)
けがや被害 なし/あり
自分で気づいた原因・提案 任意

スマートフォンの入力フォームや、メッセージアプリで受け付けるのも一案です。ポイントは、「文章がうまく書けなくても出せる」ことです。

責めない・共有する運用

  • 報告を受けたら、最初に「教えてくれてありがとう」と伝える
  • 個人の反省を求めるのではなく、「どうすれば起きにくくなるか」を一緒に考える
  • 対策が決まったら、報告者に返し、全員に共有する(誰が報告したかは伏せてよい)
  • 報告数を、個人の評価に使わない

一方で、責めないことと、放置することは違います。同じ場面で何度も起きているなら、手順書を直すなど、事業所として動く必要があります。

月1回の振り返り

15〜30分で構いません。次の順で進めます。

  1. その月のヒヤリハットと事故を一覧にする
  2. 件数の多い場面(移乗、玄関の段差、服薬など)を確認する
  3. 原因を「人」ではなく「手順・環境・情報共有」から考える
  4. 直すことを1〜2個に絞り、担当者と期限を決める
  5. 前月に決めた対策が実行されているかを確認する

事故が起きたときの初動チェックリスト

  • 利用者さんの安全確保と、必要な受診・救急要請を最優先にした
  • 事業所内で管理者・サ責に、すぐ報告が届いた
  • 家族、ケアマネジャー(居宅介護支援事業者等)に連絡した
  • 市町村(障害福祉は都道府県・市町村)への報告の要否と期限を、自治体の案内で確認した
  • 事実(いつ、どこで、誰が、何をしたか)を記憶が新しいうちに記録した
  • 採った処置を記録した
  • 賠償が必要な事故になり得る場合、保険会社への連絡を検討した
  • 原因と再発防止策を、後日まとめた

事故の直後は職員も動揺しています。「責めない」姿勢は、このときこそ大切です。

今日からできること

  1. 「何をヒヤリハットとして出してもらうか」を、事例つきで一枚にまとめる
  2. 報告様式を、30秒で書ける項目に絞る
  3. 月1回の振り返りの日を、先にカレンダーに入れる

あわせて、事故時の報告先・期限を、自治体の案内で確認して事務所に貼っておくと安心です。

まとめ

事故報告は基準で求められる「事故が起きたあとの対応」、ヒヤリハットは「起きる前に手を打つための情報」です。後者が集まるかどうかは、書式の手軽さと、責めずに共有し、変化につなげる運用にかかっています。まず、報告してくれた人に礼を言うことから始めてみてください。

次回は第5回「苦情対応」を取り上げます。

本記事は、公開されている資料をもとに一般的な内容を整理した情報提供です。制度の最新の扱いや個別の事案については、所轄の自治体や専門家にご確認ください。

参考にした資料