開業1年目の月次収支の見方:稼働時間・利用者数と固定費
こんにちは、ぺーさんです。
「運営1年目シリーズ」の第7回です。開業して数か月から1年が経つと、「忙しいのに、なぜかお金が残らない」「利用者は増えたのに、通帳の残高が減っている」という感覚が出てきます。
今回は、月次の収支を見る枠組みを整理します。国保連の請求スケジュールそのものは国保連への請求はいつから始まる——初回入金までの資金繰り、開業資金や融資の一般論は開業資金はどれくらい必要か——資金計画と使える補助金で書いていますので、この記事では「毎月、何を見ればよいか」に絞ります。
訪問系の収入の仕組み
まず、確認できた事実です。
- 請求は、サービスを提供した月の翌月1日〜10日に国保連へ行います。介護給付費も障害者総合支援給付費も、10日が期限とされています。
- 支払は、サービス提供月の翌々月です。日は国保連ごとに違い、ある県の国保連の案内では、障害の給付費は請求の翌月(サービス提供月の翌々月)15日頃、別の道の国保連の日程では、介護給付費はサービス提供月の翌々月27日前後とされています。所属する国保連の日程表で確認してください。
- 障害福祉サービスの請求で審査上の不備があれば、返戻の通知が届きます。ある県の国保連の案内では、返戻通知は請求の翌月1日頃です。
- 利用者負担は、介護保険では所得に応じて1〜3割、障害福祉サービスでは所得に応じた月額の上限が設けられています。利用者負担分は、国保連からの入金とは別に、利用者から受け取ることになります。
つまり、「今月働いた分」が入金されるのは、2か月あとです。月次の収支を「入金があった月」だけで見ると、事業の実態が2か月遅れて見えます。
固定費と変動費に分けて見る
ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。
収支を見るには、費用を「サービスの量に応じて動く費用」と「動かない費用」に分けると分かりやすくなります。訪問系は、時給や時間単価で働くヘルパーの人件費が、稼働に応じて動く費用になりやすい一方、管理者・サービス提供責任者の人件費、家賃、車両費などは、利用者数にかかわらずかかります。
| 区分 | 主な項目の例 | 動き方 |
|---|---|---|
| 固定費 | 管理者・サービス提供責任者の人件費、家賃、車両のリース・保険、通信費、記録・請求ソフトの利用料 | 利用者が少なくても発生する |
| 変動費 | 時給制ヘルパーの賃金、交通費、ガソリン代、消耗品 | 稼働時間や訪問件数に応じて増える |
どの費用を固定・変動とするかは、事業所の雇用形態によって変わります。常勤のヘルパーが多ければ、人件費は固定費に近くなります。
損益分岐の考え方(仮想の例)
損益分岐点は、赤字にも黒字にもならない売上のことです。
損益分岐点の売上 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
変動費率は、売上に対する変動費の割合です。
次の数字は、考え方を示すための仮想の例です。実際の事業所の数字や、報酬単価を示すものではありません。
| 項目 | 仮想の金額 |
|---|---|
| 固定費(月) | 120万円 |
| 変動費率 | 60% |
| 損益分岐点の売上 | 120万円 ÷ 0.4 = 300万円 |
この場合、月の売上が250万円なら、250万円 × 0.4 − 120万円 = マイナス20万円。350万円なら、350万円 × 0.4 − 120万円 = プラス20万円です。
売上を稼働時間に置き換える場合は、次のように考えます。
損益分岐の稼働時間 = 固定費 ÷(1時間あたり売上 − 1時間あたり変動費)
「1時間あたり売上」は、加算や、身体介護・家事援助などの構成で変わりますから、自分の事業所の直近3か月の実績(売上 ÷ 提供時間)で計算します。ここに報酬単価の数字を持ち込む必要はありません。
月次で見る指標
私は、次の指標を毎月、同じ表に記録することをおすすめします。
| 指標 | 見方(この記事での定義) |
|---|---|
| 提供時間・訪問件数 | 月ごとの合計。前月・前年同月と比べる |
| 利用者数 | 新規・終了・休止を分けて記録する |
| 稼働率 | 実際の提供時間 ÷ ヘルパーの勤務可能な時間。低いときは空きが多い |
| キャンセル率 | キャンセルの件数 ÷ 予定件数。増えたときは理由を分類する |
| 人件費率 | 人件費 ÷ 売上。上がり続けていないか |
| 請求額と入金額の差 | 請求した額と入金された額の差。返戻・査定・利用者負担の入金漏れがないか確認 |
| 返戻・保留の件数 | 発生の理由と、再請求までの日数 |
| 月末の現預金残高 | 次の3か月の入出金の見込みと合わせて見る |
キャンセルの扱い(キャンセル料の有無、連絡の期限)は、契約書や重要事項説明書の内容によります。取り決めがないと、キャンセルが多い月ほど収支が悪化します。
「提供月ベース」と「入金月ベース」の2枚を作る
- 提供月ベース:サービスを提供した月の売上と、その月の費用を並べる。事業の稼ぐ力を見る
- 入金月ベース:実際に入金・支払があった月の現金の出入りを並べる。資金がもつかを見る
提供月ベースが黒字でも、入金月ベースで残高が減っていく時期があります。利用者が急に増えた月は、ヘルパーの賃金が先に出ていきますから、とくに注意が必要です。
資金が足りなくなったときの相談先
足りなくなってから動くと、選べる手段が減ります。「3か月先に残高が薄くなりそう」という段階で相談を始めるのが安全です。以下は、私が公的資料で確認できた範囲です。
- 日本政策金融公庫:「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める人や、事業開始後おおむね7年以内の人が対象で、運転資金も資金の使いみちに含まれます。融資限度額は7,200万円、運転資金の返済期間は10年以内(据置5年以内)とされています。細かい要件は区分によって違うため、窓口で確認してください。
- 自治体の制度融資:自治体、金融機関、信用保証協会が関わる仕組みです。信用保証協会は、借主の返済が滞ったとき、金融機関に代わって立て替え払いを行い、借主は所定の保証料を支払います。内容は自治体ごとに異なります。
- 商工会議所:経営相談は原則無料で、創業や資金調達、事業計画書の作成などの相談ができるとされています。地域の商工会議所に確認してください。
融資は、借りる前に返済の見通しを立てることが大切です。個別の資金計画は、税理士や金融機関、公庫、商工会議所などの窓口で相談してください。
まず今日やること3つ
- 直近3か月の「提供月ベース」の売上・人件費・固定費を、1枚の表に書き出す
- 固定費の合計と変動費率を計算し、損益分岐点の売上を出してみる
- 3か月先までの入金予定日と支払予定日を並べ、残高が最も低くなる月を確認する
まとめ
月次の収支は、提供月ベースで事業の稼ぐ力を、入金月ベースで資金のもちを見る、という2つの目で確認します。指標は最初から増やしすぎず、提供時間、稼働率、キャンセル率、請求と入金の差、現預金残高の5つから始めるのがよいと考えます。次回、最終回の第8回は「1年目の棚卸し」です。
本記事は、公開されている資料をもとに一般的な内容を整理した情報提供です。制度の最新の扱いや個別の事案については、所轄の自治体や専門家にご確認ください。