行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

体制整備

身体拘束等の適正化:やむを得ない場合の要件と記録

こんにちは、ぺーさんです。

「ルールづくりシリーズ」の第3回は、身体拘束等の適正化です。

「うちは訪問系だから、身体拘束は関係ない」。そう思っている事業所は少なくないかもしれません。しかし、障害福祉サービスでは、居宅介護や重度訪問介護などの訪問系も、身体拘束等の適正化のための措置の対象です。介護保険の訪問介護とは扱いが違うので、両方を運営している事業所は特に注意が必要です。

制度の整理

障害福祉サービス(訪問系を含む)

指定障害福祉サービスの基準(居宅介護の条文で確認)では、次のように定められています。

  • 利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(身体拘束等)を行ってはならない
  • やむを得ず行う場合は、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない
  • 適正化のため、①委員会を定期的に開催し、結果を従業者に周知すること(テレビ電話装置等の活用可)、②指針を整備すること、③従業者に対し研修を定期的に実施すること、の措置を講じなければならない

厚生労働省の資料(身体的拘束等の適正化の推進)には、訪問系サービスを対象とした理由として、知的障害や精神障害のある人も対象であり、身体拘束が行われることも想定されるため、との趣旨が書かれています。対象は、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援とされています。

施行時期は、同じ資料で次のように整理されています。

時期 内容
令和3年4月 委員会・指針・研修は努力義務
令和4年4月 委員会・指針・研修が義務化
令和5年4月 訪問系にも、身体拘束廃止未実施減算が適用

令和6年度の報酬改定では、この減算について、訪問・通所系サービスは所定単位数の1%を減算する、と見直されています(厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」)。減算の細かい要件は、必ず最新の報酬告示・留意事項通知で確認してください。

介護保険の訪問介護

訪問介護の基準では、身体拘束等の禁止と、やむを得ず行う場合の記録(態様及び時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由)が定められています。一方で、私が確認した範囲では、訪問介護に委員会・指針・研修を課す規定は見つかりませんでした。ある市の資料でも、訪問介護は身体拘束等適正化検討委員会が「不要」とされています。研修は「お願い」としている市もあります。

つまり、両方を運営する事業所では、障害福祉の側の基準が厳しいことになります。介護保険の対象となる利用者にも、同じ手順で記録を残しておく運用が、無理がないと私は考えます(これは私の考えです)。

やむを得ない場合の3要件

厚生労働省の資料では、やむを得ず行う場合は、次の3つをすべて満たすことが必要とされています。介護保険の「身体拘束ゼロへの手引き」も、同じ3要件を示しています。

要件 意味(資料の趣旨) 確認のポイント(私の実務上の考え)
切迫性 利用者本人又は他の利用者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い 「危ないかもしれない」ではなく、具体的にどんな危険が、どの程度の可能性であるかを書けるか
非代替性 身体拘束以外に代替する方法がない 声かけ、環境調整、人員の増員、支援の方法の変更など、ほかの方法を実際に検討した記録があるか
一時性 身体拘束が一時的なものである 開始時に、いつまでか、いつ見直すかを決めているか

「3つのうち2つ当てはまればよい」ということはありません。1つでも欠ければ、例外にはなりません。

手続きと記録

厚生労働省の資料では、やむを得ず身体拘束等を行う場合の手続きとして、次の流れが示されています。

  1. 組織による決定と、個別支援計画などへの記載(態様・時間・やむを得ない理由)
  2. 本人・家族への十分な説明
  3. 行政への相談・報告に関する体制(資料にある記載)
  4. 必要事項の記録(態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由)

「身体拘束ゼロへの手引き」(平成13年)には、個人の判断ではなく組織として判断すること、本人・家族に説明して理解を得ること、拘束中も観察して、要件に当たるかを再検討し、解除を検討することが示されています。また、厚生労働省障害保健福祉部のQ&A(事務連絡)には、緊急時は事後にできる限り速やかに記載する旨の記載があります。

ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。訪問系では、複数人で判断する場面をどう作るかが課題になります。管理者・サービス提供責任者への電話連絡で判断する運用にしておくなら、連絡した日時と判断した人を、その場の記録に残しておくと後で確認できます。

記録の様式(仮想の例)

項目 記入の例
日時・時間 〇月〇日 〇時〇分〜〇時〇分
実施した行為(態様) 具体的に何をしたか
利用者の心身の状況 そのときの様子
緊急やむを得ない理由 切迫性・非代替性・一時性のそれぞれについて
ほかに試した方法 声かけ、環境調整など
判断した人・連絡した人 役職で可
本人・家族への説明 日時、方法、反応
終了後の確認 解除の時刻、事後の様子、再発防止の検討

指針・委員会・研修で盛り込むこと

厚生労働省の資料では、身体拘束等の適正化のための指針に、次の項目を盛り込むこととされています。

  • 基本的考え方
  • 委員会その他の組織に関する事項
  • 研修に関する基本方針
  • 報告方法等の方策
  • 発生時の対応方針
  • 利用者等に対する閲覧に関する方針
  • その他推進のために必要な基本方針

研修は、資料上、年1回以上の定期的な実施と、新規採用時の実施が挙げられています(回数は資料や自治体で表現が異なるので、所轄の自治体で確認してください)。委員会は、第2回で書いた虐待防止委員会と合同で開催してよいと、同じ資料に記載があります。

よくある落とし穴

ここも私の実務上の考えです。

  • 「身体拘束はしていない」と思い込む:たとえば、玄関や居室の戸を外から開けられないようにする、本人が出ようとするのを繰り返し制止するなど、「行動を制限する行為」は、日常の支援の中にも入り込み得ます。委員会で「これは制限に当たるか」を話し合う場を作ります
  • 記録が事後にまとめて書かれる:時間と状況が曖昧になります。実施中に、要点だけでもメモを残します
  • 家族の同意があれば足りると考える:同意の有無と、3要件を満たすかは別の問題です
  • 一時的なはずが、常態化する:定期的に再検討する日を決めておきます

なお、障害者虐待防止法では、正当な理由なく身体を拘束することが、身体的虐待に当たるとされています。手続きを踏まない拘束は、虐待につながり得ることを、職員に伝えておく必要があります。

まず今日やること3つ

  1. 身体拘束等の適正化の指針があるか、上の7項目が入っているか確認する
  2. 「行動を制限する行為」に当たり得る場面を、職員から3つ集める
  3. 記録の様式があるか確認し、なければ上の項目で作る

まとめ

障害福祉サービスの訪問系では、身体拘束等の禁止と記録、委員会・指針・研修が求められています。例外は3要件をすべて満たす場合に限られ、組織で判断し、説明し、記録することが基本です。次回は、感染症・自然災害のBCPを「作って終わり」にしないための訓練と見直しを取り上げます。

身体拘束に関する指針・マニュアルや、やむを得ない身体拘束の説明書・同意書(Excel)の雛形が必要な場合は、私が実際の事業所で使用している内容をもとに作成した「障害者虐待防止・身体拘束適正化 指針+マニュアル+同意書セット」(11,000円・税込)も販売しています。よろしければご覧ください。

本記事は、公開されている資料をもとに一般的な内容を整理した情報提供です。制度の最新の扱いや個別の事案については、所轄の自治体や専門家にご確認ください。

参考にした資料