求人票の給与欄の読み方:基本給・手当・固定残業代と最低賃金のチェック方法(求人票シリーズ 第3回)
こんにちは、ぺーさんです。
「求人票シリーズ」の第3回は、求人票の中でも応募者がいちばん注目する給与欄を取り上げます。
給与欄は、金額が大きく書いてあるほど目を引きます。ただ、その金額が「何の合計なのか」が読み取れないと、入社後に「思っていた額と違う」というすれ違いが起きやすくなります。書く側の事業所運営者にも、読む側の求職者にも役立つように、内訳の見方から整理していきます。
給与欄は「合計」より「内訳」を見る
ハローワークの求人票は、基本給、定額的に支払われる手当、固定残業代、その他の手当等といった項目に分かれています。
| 項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 基本給 | 毎月必ず支払われる土台の金額。賞与や割増賃金の計算の基礎になることが多い |
| 定額的に支払われる手当 | 資格手当、処遇改善に関する手当など、毎月決まって出るもの |
| 固定残業代 | 残業の有無にかかわらず、一定時間分の割増賃金として支払うもの |
| 通勤手当 | 別欄で「実費支給(上限あり)」などと書かれることが多い |
「月給22万円」と書いてあっても、その中に固定残業代が入っていれば、基本給はもっと低くなります。合計額だけでなく、どこまでが基本給なのかを見ることが第一歩です。
固定残業代の明示ルール
固定残業代(みなし残業代と呼ばれることもあります)は、一定時間分の時間外労働などに対する割増賃金を、あらかじめ定額で支払う仕組みです。
求人票に書くときのルールは、職業安定法第5条の3(労働条件等の明示)に関連して、厚生労働省の指針(平成11年労働省告示第141号)で定められています。厚生労働省のリーフレットなどでは、固定残業代を採用する場合、次の3点をすべて明示するよう求めています。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代の計算方法(何時間分で、金額はいくらか)
- 固定残業時間を超えて時間外労働などをさせた場合は、超えた分の割増賃金を追加で支払うこと
たとえば、次のような書き方です。あくまで私が作った仮想の記載例です。
月給 212,400円(下記の合計) ・基本給 172,400円 ・資格手当 10,000円 ・固定残業代 30,000円(時間外労働の有無にかかわらず20時間分として支給) ※20時間を超える時間外労働の割増賃金は追加で支給します。
厚生労働省の改正職業安定法Q&Aでは、固定残業代について、基礎となる時間数などを示さずに基本給に含めて表示することは、誤解を生じさせる表示にあたるとして整理されています。また、固定残業代の金額は、実際の割増賃金の計算額を下回らないようにする必要があります。上の例で言えば、基本給と資格手当の合計182,400円を月160時間で割った時間単価は1,140円です。割増率25%で20時間分を計算すると28,500円になり、固定残業代30,000円はその額以上です。
月給を時間給に直して最低賃金と比べる
最低賃金法施行規則第2条は、月給の場合、月給を月の所定労働時間数で割って時間額に換算すると定めています。月によって所定労働時間が異なる場合は、年間の1か月平均の所定労働時間数で割ります。
計算のしかた
- 1か月の平均所定労働時間を出す:1日の所定労働時間 × 年間所定労働日数 ÷ 12
- 比べる金額を出す:月給から、最低賃金の対象にならない賃金を引く
- 2 ÷ 1 が最低賃金の時間額以上かを確認する
最低賃金の対象にならない賃金には、次のようなものがあります。
- 時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金(固定残業代もここに入ります)
- 賞与など、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金や臨時に支払われる賃金
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
兵庫県の地域別最低賃金は、令和8年10月1日から時間額1,172円です(兵庫労働局が発表。改定前は1,116円でした)。産業別(特定)最低賃金が別に定められている業種もあり、両方の適用を受ける場合は高いほうが適用されます。
先ほどの仮想の求人票で確認してみます。1日8時間、年間所定労働日数240日として、月平均の所定労働時間は8時間 × 240日 ÷ 12 = 160時間です。
- 比べる金額:基本給172,400円 + 資格手当10,000円 = 182,400円(固定残業代と通勤手当は除く)
- 時間額:182,400円 ÷ 160時間 = 1,140円
改定前の1,116円は上回りますが、1,172円には届きません。この求人票のまま10月以降も募集していたら、最低賃金を下回ることになります。1,172円をクリアするには、160時間の場合、月187,520円以上が必要です。月給の合計額だけ見ていると、固定残業代の分で「足りている」ように見えてしまう点に注意が必要です。
「月給〇〇円〜」の幅をどう読むか
「月給20万円〜28万円」のように幅を持たせた表示は、認められています。ただし、上限が実際より高い賃金を受け取れるかのような誤解を与えてはいけません。
読む側としては、次の点を確認するとよいでしょう。
- 下限は、未経験や資格なしの場合の額なのか
- 上限は、どんな経験・資格・役職の人の額なのか
ハローワークの事業主向けの案内でも、勤続が極めて長い職員の給与を上限として書いたり、過度な残業を前提にした金額を書いたりせず、平均的な実態を書くようお願いされています。下限が最低賃金を下回っていないかは、先ほどの方法で確認できます。
賞与の書き方
賞与は、求人票で誤解が生まれやすい項目です。ハローワークの求人情報の見方では、昇給・賞与の欄は前年度の実績であり、採用後の待遇を約束するものではない、と説明されています。
書く側は、次の点を意識してみてください。
- 「あり」と書くなら、直近の実績(回数、基本給の何か月分か、または金額)をあわせて書く
- 業績や勤務成績で変わる、支給しない場合もある、といった条件があるなら書いておく
読む側は、賞与が「実績」なのか「規定にもとづく支給」なのかを確認しましょう。なお、賞与は最低賃金の比較には入りません。毎月の給与だけで最低賃金を満たしているかを見る必要があります。
書く側・読む側それぞれの注意点
書く側(事業所運営者)
- 基本給、手当、固定残業代を分けて書き、合計額だけを大きく見せない
- 固定残業代を設けるなら、3点(基本給、時間数と金額、超過分の追加支払い)を漏らさず書く
- 毎年秋の最低賃金の改定に合わせて、求人票の金額を見直す
以下は法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。処遇改善加算を原資にした手当がある場合は、手当の名称と金額を分けて書くと、応募者に伝わりやすいと思います。固定残業代は、面接でも口頭で説明したほうが安心です。
読む側(求職者)
- 「月給」に固定残業代が含まれていないか、基本給はいくらかを確認する
- 固定残業の時間数と、それを超えた分が別に払われるかを確認する
- 月給を時間給に直し、最低賃金を下回っていないかを確認する
- 気になる点は、応募前や面接で質問する
まとめ
給与欄は、合計額ではなく内訳で読む。固定残業代は、基本給の額、時間数と金額、超過分の追加支払いの3点がそろっているか。月給を時間給に直せば、最低賃金を下回っていないかを自分で確認できる。この3つで、給与欄のすれ違いは減らせます。
次回の第4回は、求人票の金額と実際の手取りの違いを扱う「額面と手取り」です。
本記事は、公開されている資料をもとに一般的な制度を整理した情報提供です。個別の事案や最新の法令の扱いについては、社会保険労務士などの専門家や労働局にご確認ください。
参考にした資料
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク:固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、次の①~③の内容すべてを明示してください。
- 厚生労働省:職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)
- 厚生労働省職業安定局:募集・求人業務取扱要領(平成30年1月)
- 厚生労働省:令和4年 改正職業安定法Q&A
- 兵庫労働局:兵庫県最低賃金 時間額1,172円に改正決定 ~発効日は令和8年10月1日~
- 兵庫県:最低賃金制度の案内
- 厚生労働省:最低賃金法施行規則
- 厚生労働省:最低賃金法
- 徳島労働局:最低賃金額以上かどうかの確認方法
- ハローワークインターネットサービス:求人情報の見方
- ハローワークインターネットサービス:求人の入力方法(賃金の記入)
- 大阪労働局・ハローワーク:求人票に求人内容が明確に記載されていないため、「求人記載内容と実際が異なる」との相談が、ハローワークに多く寄せられています。