行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

現場の管理

利用者・ご家族からの苦情を、記録と報告でつなぐ:運営基準の「苦情処理」と実務の流れ

こんにちは、ぺーさんです。

「マネジメントシリーズ」の第5回は、苦情への対応です。苦情は、受けた瞬間は気が重いものです。ただ、記録して報告し、次のケアにつなげる流れが決まっていれば、事業所の質を上げる材料にもなります。

今回は、運営基準に書かれている苦情処理を確認したうえで、初動から再発防止までの流れを整理します。

運営基準に書かれていること

まず制度の話です。ここは事実だけを書きます。

訪問介護(介護保険)

厚生労働省が公開している「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)では、苦情処理について次のように定められています(訪問介護は第36条)。

  • 利用者・ご家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するため、苦情を受け付ける窓口を設置するなど必要な措置を講じる
  • 苦情を受け付けたときは、その内容等を記録する
  • 市町村の調査(書類の提出・提示、職員からの質問・照会)に協力し、指導・助言を受けたら必要な改善を行い、求められれば改善内容を報告する
  • 国民健康保険団体連合会(国保連)の調査にも、同様に協力する

運営基準の解釈通知には、相談窓口や苦情処理の体制・手順を利用申込者への説明文書に記載すること、苦情への措置の概要を事業所内に掲示することが示されています。

障害福祉サービス

「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号)は、第39条が「苦情解決」です。窓口の設置、苦情内容の記録、市町村や都道府県の調査への協力と改善のほか、社会福祉法に基づく運営適正化委員会の調査・あっせんに「できる限り協力しなければならない」と定められています。

運営適正化委員会は、都道府県社会福祉協議会に置かれる第三者機関です。事業者との話し合いで解決しない苦情などを受け付け、事情の調査や助言、あっせんを行うと、各県の社協が案内しています。

また、厚生労働省の指針(社会福祉事業の経営者向け)には、苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員という体制や、受付から話し合い、記録・報告までの手順が示されています。体制づくりの参考になります。

記録の保存期間

苦情の内容等の記録は、「記録の整備」の条文にも含まれています。

制度 国の基準(省令) 起算日
訪問介護(居宅基準 第39条第2項) 2年間 「その完結の日」
障害福祉サービス(171号 第42条第2項) 5年間 サービスを提供した日

ただし、これは国の基準です。自治体が条例で定める基準は、これと異なることがあります。たとえば、ある市の資料では、国の省令が2年間のところを市の条例では5年間としています。ある県の重要事項説明書のガイドラインには、サービス提供の記録を「5年以上」保管するとあります。

保存期間の起算日や年数は、所轄の自治体の条例・資料でご確認ください。条番号も改正で変わることがあるため、原文でご確認ください。

苦情を受けたときの初動

ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。

初動で大切なのは、「その場で解決しようとしすぎない」ことだと考えています。電話で受けた担当者が、言い訳や説明を重ねると、かえって話がこじれることがあります。

  1. まず聴く:遮らず、受け止める。謝るのは「不快な思いをさせたこと」に対してで、事実確認前に原因を認めたり否定したりしない
  2. 要点を書き留める:いつ、どこで、誰が、何を。ご本人の言葉をそのまま残す
  3. 返答の時期を伝える:「確認して、〇日までにご連絡します」と約束する
  4. その日のうちに管理者へ報告する:受けた職員が抱え込まない
  5. 事実確認をする:当事者の職員、サービス記録、連絡ノートなどで確認する

利用者さんに危害が及ぶ可能性がある場合や、事故・虐待が疑われる場合は、苦情としてではなく、事故報告・虐待対応の手順に切り替えます。報告が必要な範囲は、自治体の要綱で異なります。

記録の書き方(仮想の記録例)

記録は、あとから第三者が読んでも経過が分かることが大切です。次の内容は、仮想の例です。

項目 記載例(仮想)
受付日時・受付者 〇月〇日 16:10/サービス提供責任者
申出人・利用者 利用者の長女/利用者本人
苦情の内容 「予定時刻より30分遅れて来ることが続いている」
申出人の希望 事前に連絡がほしい
事実確認 直近1か月の記録で、遅れが3回。前の訪問の延長が理由
対応と回答日 〇月〇日に管理者から電話で説明し、了承を得た
原因の分析 訪問間の移動時間を見込んだ組み方になっていなかった
再発防止策 遅れる見込みのときは事前に連絡する。翌月のシフト作成時に時間の余裕を見直す
報告・共有 全体会議で共有(〇月〇日)/市町村への報告の要否:なし

ポイントは3つです。

  • 事実と、職員の推測・評価を分けて書く
  • 「誰に、いつ、何を伝えたか」まで残す
  • 対応が終わったあとも、再発防止策が実行されたかを確認した日を書き足す

再発防止につなげる流れ

苦情の記録は、書いて保管するだけではもったいないと考えています。私が有効だと思う流れは次のとおりです。

  1. 受付から3日以内を目安に、管理者が経過を確認する
  2. 月1回の会議で、苦情の一覧(件数、内容、原因の分類)を共有する
  3. 原因を「個人の注意不足」で終わらせず、仕組み(手順書、シフト、連絡ルール、教育)の面から考える
  4. 決めた再発防止策を、手順書や申し送りに反映する
  5. 一定期間のあと、同じ苦情が出ていないかを確かめる

苦情がゼロであることを目標にするより、「出た苦情が記録され、共有され、改善につながっている」状態を目標にするほうが、実態に合うと思います。

重要事項説明書の苦情窓口

重要事項説明書の苦情欄は、契約時に一度説明して終わりになりがちです。次の点を確認してください。

  • 事業所の窓口と担当者名、受付時間、受付方法(電話、書面など)
  • 保険者である市町村と、国保連の相談窓口(介護保険。ある県のガイドラインでも、これらの窓口の記載を求めています)
  • 障害福祉サービスでは、市町村の窓口と、運営適正化委員会の連絡先
  • 担当者や電話番号が変わったときに、書類も更新されているか
  • 事業所内への掲示と内容が食い違っていないか

窓口の連絡先は変わることがあります。記載前に、各機関の最新の案内をご確認ください。

今日からできること

  1. 直近1年分の苦情記録を出し、記録の項目に「原因」と「再発防止策」があるか確認する
  2. 重要事項説明書と掲示物の苦情窓口が最新か、外部窓口の連絡先が正しいかを見直す
  3. 苦情の保存期間を、所轄の自治体の条例・資料で確認し、事業所の文書管理表に書き込む

まとめ

苦情処理は、窓口の設置、記録、行政や国保連・運営適正化委員会の調査への協力という、基準上の義務を果たす仕組みです。そこに、初動、記録、再発防止という流れを重ねると、事業所の質の改善に使えます。次回は、第6回「加算・書類の期限管理」として、変更届や体制届の期限を落とさない管理表の作り方を取り上げます。

本記事は、公開されている資料をもとに一般的な内容を整理した情報提供です。制度の最新の扱いや個別の事案については、所轄の自治体や専門家にご確認ください。

参考にした資料