行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

体制整備

虐待防止のための指針に、盛り込む項目と作り方

こんにちは、ぺーさんです。

今回から「ルールづくりシリーズ」を始めます。毎週木曜に、事業所が整備を求められる指針・マニュアル・計画を取り上げ、「作らなければいけないのは分かったが、何を書けばいいのか分からない」という悩みに答える連載です。各回とも「盛り込む項目」「作り方の手順」「よくある形骸化」の3点を軸に進めます。

第1回は、虐待防止のための指針です。委員会や研修をどう回すかという体制全体は、障害福祉サービスの虐待防止体制——委員会・研修・指針をどう整えるかで書きました。今回は指針そのものの中身に絞ります。

制度の整理:どの制度で、指針は求められるのか

まず事実の確認です。指針の扱いは、障害福祉サービスと介護保険で違います。

措置 障害福祉(居宅介護の基準で確認) 介護保険(訪問介護の基準で確認)
委員会の定期開催と結果の周知 定められている(テレビ電話装置等の活用可) 定められている
従業者への研修の定期的な実施 定められている 定められている
担当者の配置 定められている 定められている
虐待防止のための指針の整備 条文には出てこない 条文で整備が定められている

障害福祉サービスの虐待防止措置(指定障害福祉サービスの基準の、居宅介護の第40条の2)は、私が厚生労働省の法令データベースで確認した範囲では、委員会・研修・担当者の3つです。令和3年度の改正で定められ、令和4年3月31日までは努力義務とする経過措置があったと、自治体の資料に書かれています。訪問介護(指定居宅サービス基準の第37条の2)は、委員会・指針・研修・担当者の4つで、令和6年4月から全面的に義務となっています。

障害福祉サービスの場合は、厚生労働省の「障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月)に、運営規程に「虐待の防止のための措置に関する事項」を定めることが示されています。そこで挙げられている項目は、責任者の選定、成年後見制度の利用支援、苦情解決体制の整備、研修の実施、虐待防止委員会の設置等です。また、指針は「作成することが望ましい」と案内する自治体の資料もあります。

つまり、指針を条文で求められるのは介護保険の側で、障害福祉サービスでは運営規程や自治体の案内が根拠になる、というのが私の理解です。障害福祉と訪問介護を両方運営している事業所は、1本の指針で両方をカバーしておくのが現実的だと考えます。所轄の自治体が指針を求めているかどうかは、確認しておいてください。

指針に盛り込む項目

介護保険の解釈通知で、指針に盛り込むこととされている項目は、次の9つとされています(解説資料による)。

  1. 事業所における虐待の防止に関する基本的考え方
  2. 虐待防止検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
  3. 虐待の防止のための職員研修に関する基本方針
  4. 虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針
  5. 虐待等が発生した場合の相談・報告体制に関する事項
  6. 成年後見制度の利用支援に関する事項
  7. 虐待等に係る苦情解決方法に関する事項
  8. 利用者等に対する当該指針の閲覧に関する事項
  9. その他虐待の防止の推進のために必要な事項

障害福祉サービスの運営規程に書く5項目と、ほぼ重なります。表現は資料で少しずつ異なりますので、原典(解釈通知)で確認してください。

ここからは、法令の内容ではなく、私の実務経験にもとづく考えです。項目ごとに、「何を書けば中身のある指針になるか」を整理します。

項目 書く内容の考え方 たとえばの短い例文
基本的考え方 理念だけでなく、虐待の種類(身体・心理・性的・経済・ネグレクト)と、訪問先で起こりやすい場面を書く 「私たちは、利用者の自宅に一人で入るという特性を自覚し、密室性が虐待につながり得ることを前提に業務を行う」
委員会等の組織 委員長、担当者、開催の頻度、開催しない月の代替手段を書く 「委員会は管理者が委員長を務め、年〇回以上開催する。担当者はサービス提供責任者とする」
研修の基本方針 対象者、頻度、新規採用時の実施時期、記録の残し方 「全職員を対象に年〇回、新規採用者には採用後〇か月以内に実施する」
発生時の対応 気づいた人が最初に誰へ連絡するか、夜間・休日の連絡先、事実の記録方法 「気づいた職員は直ちに管理者へ報告し、管理者は市町村の通報窓口への連絡の要否を判断する」
相談・報告体制 職員が相談しやすい窓口を、管理者以外にも用意する 「管理者に言いにくい場合は、代表者にも直接相談できる」
成年後見制度の利用支援 相談先(地域の窓口)と、利用が必要と思われる利用者に気づいたときの動き 「必要と思われる場合は、相談支援専門員や市町村の窓口につなぐ」
苦情解決 受付担当者、責任者、記録、外部の窓口の案内 「苦情は受付担当者が記録し、責任者が対応を決める」
指針の閲覧 利用者・家族が見られる場所、求められたときの渡し方 「事務所に備え置き、求めがあれば写しを渡す」

障害福祉サービスの事業所は、身体拘束等の適正化のための指針も、別に整備する必要があります。こちらは第3回で扱います。国の資料では、虐待防止委員会と身体拘束等の適正化委員会を一体的に運営してよいとされています。指針を1冊にまとめてよいかは確認できていないので、別々に作るか、まとめてよいかを所轄の自治体に確認してください。

作り方の手順

私が考える手順は、次の5段階です。

  1. 根拠を確認する:所轄の自治体のホームページや、運営指導の自己点検票を見て、求められている項目を確認する
  2. ひな形を集める:厚生労働省の手引きや、自治体が公開している例を読む。国の手引きには倫理綱領の例も載っています
  3. 自事業所の実態を書き込む:担当者の名前ではなく「役職」で、連絡先、開催頻度、記録の保管場所を具体的に書く
  4. 職員に読んでもらう:完成前に、サービス提供責任者やヘルパー1〜2名に読んでもらい、「分からない言葉」「現場と違う点」を直す
  5. 委員会で決定し、日付と版を残す:委員会で承認した日を記録し、改定履歴をつける

ひな形をそのまま写した指針は、運営指導で「事業所の実態と合っていない」と見られやすいと私は思います。

職員への周知の方法

条文でいう「周知」は、配って終わりではありません。私は次の方法を組み合わせるとよいと考えます。

  • 採用時の説明の中で、指針を読み合わせる
  • 年1回の研修で、指針の該当箇所を使って事例を検討する
  • 事務所と、必要ならスマートフォンで見られる場所に置く
  • 指針を読んだ日と氏名を記録する(読んだ証拠として、運営指導でも役立ちます)

形骸化を防ぐ工夫

よくある形骸化と、その対処を並べます。ここも私の実務上の考えです。

よくある形骸化 起きること 対処の例
担当者が退職しても指針の名前が変わっていない 誰に連絡すればよいか分からなくなる 人名でなく役職で書き、人事異動のたびに確認する
相談窓口が管理者だけ 管理者が関わる問題は相談できない 代表者や外部の窓口も書く
何年も改定していない 制度改正や事業所の変化が反映されない 年1回、委員会の議題に「指針の見直し」を入れる
職員が存在を知らない いざというときに使われない 研修のたびに、指針の一部を読み合わせる
発生時の流れが抽象的 判断できず初動が遅れる 「誰が・いつまでに・何をする」を1行ずつ書く

まず今日やること3つ

  1. 自事業所の指針を開き、上の9項目が抜けなく入っているか、チェックする
  2. 担当者や連絡先が、今の体制と合っているか確認する
  3. 所轄の自治体のホームページで、指針についての案内を確認し、日付を控える

まとめ

指針は、作ること自体より、「現場で使われる」ことに意味があります。項目を押さえ、事業所の実態を書き込み、職員に読んでもらうところまでが作業だと私は考えます。次回は、指針とセットで動かす「虐待防止委員会の進め方」を取り上げます。

指針の雛形が必要な場合は、私が実際の事業所で使用している内容をもとに作成した「障害者虐待防止・身体拘束適正化 指針+マニュアル+同意書セット」(11,000円・税込)も販売しています。よろしければご覧ください。

本記事は、公開されている資料をもとに一般的な内容を整理した情報提供です。制度の最新の扱いや個別の事案については、所轄の自治体や専門家にご確認ください。

参考にした資料