入浴中の見守りを怠り、約3,200万円の賠償に:知的障害児施設での溺死事故が示した安全配慮
こんにちは、ぺーさんです。
入浴は、日常生活のなかでも事故のリスクがとくに高い場面です。障害福祉の現場では、生活介護、短期入所、グループホームなど、入浴の支援や見守りを行う場面が少なくありません。
今回の「判例シリーズ」第4回は、知的障害児施設で入所者が入浴中に亡くなった事故の裁判例です。少し古い判決ですが、現在の事業所にもそのまま当てはまる内容です。
事案の概要
青森地方裁判所の平成21年12月25日判決です。
- 亡くなったのは、知的障害児施設の寮で暮らしていた16歳の男性でした。自閉症、てんかん、行動障害、重度の知的障害があり、IQは24と判定されていました
- 平成16年7月21日の午後3時25分頃、男性は浴室で一人で入浴していました
- その間にてんかん発作を起こしたとみられ、午後3時50分頃、浴槽内で溺死した状態で見つかりました
ご遺族が施設側に損害賠償を求めました。
裁判所の判断
① 見守りと引き継ぎの過失 裁判所は、てんかん発作の危険がある入所者の入浴時に、職員が見守りを怠り、さらに他の職員への適切な引き継ぎも怠った点に過失があると認めました。
② 事業者側の「減額」の主張は認められなかった 事業者側は、賠償額を減らすことを求めましたが、採用されませんでした。
③ 賠償額は約3,200万円 遺族への賠償額は、約3,200万円と紹介されています(資料により3,247万円余)。
④ 逸失利益の考え方 この判決で注目されているのが、逸失利益の算定です。逸失利益とは、生きていれば将来得られたはずの収入のことです。裁判所は、知的障害のある方が能力を活かして就労する機会が広がっていることを踏まえ、約50年の就労可能期間について最低賃金額を基礎収入として計算すべきとしました。この分が約600万円でした。
障害のある方の将来の可能性を、「働けないから低く見積もる」のではなく、就労の可能性を前提に評価した判断として、障害者の逸失利益をめぐる研究のなかでも取り上げられています。
この判決から読み取れること
以下は判決そのものではなく、私の実務経験にもとづく考えです。
1. 「発作のリスク」を、入浴の方法にまで落とし込んでいるか てんかんのある方の入浴では、一人での入浴、浴槽への長時間の入浴、浴室の外からの見守りなど、状況ごとにリスクが変わります。個別支援計画やアセスメントに「てんかんがある」と書くだけでなく、その方の入浴を「どの距離で、どんな頻度で見守るか」まで具体的に決めておく必要があります。
2. 「引き継ぎ」が事故の分かれ目になる 判決が「他の職員への引き継ぎ」に触れているのは大切な点です。入浴の担当職員が交代する、途中で別の対応に呼ばれるといった場面で、「今誰が見守っているのか」が曖昧になると、そのすき間で事故が起きます。申し送りの内容と担当を、記録やホワイトボードで見える化しておくと安心です。
3. 「本人が大丈夫と言うから」は安全の根拠にならない 重度の知的障害や行動障害のある方は、体調の変化を自分で伝えられないことがあります。本人の申告ではなく、こちらから状態を確認する仕組みが必要です。
事業所が今日からできること
- てんかんのある方、ふらつきのある方について、入浴時の見守り方法を個別に決め、支援計画や手順書に記載する
- 入浴中は「職員が浴室を離れない」「離れるときは必ず他の職員に引き継ぐ」というルールを、全員で確認する
- 入浴時の事故を想定して、発作や溺水があったときの対応(救急要請、蘇生の手順)を練習しておく
- ヒヤリハットを記録し、月に1度は職員で共有する
まとめ
入浴事故は、起きてしまうと取り返しがつきません。職員一人ひとりの注意力に頼るのではなく、「誰が、どこで、どのように見守るか」を仕組みにすることが、事業所と利用者さんの双方を守ります。
本記事は、公開されている判例解説などをもとに事案を整理した一般的な情報提供です。判決原文のすべてを確認したものではなく、個別の事案については弁護士などの専門家にご相談ください。