行政書士として障害福祉サービスの指定申請を支援し、自らも障害福祉・介護保険サービスの事業所を経営する立場から、開業・運営の実務を発信

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「刺身を常食で提供」で誤嚥死亡、遺族への賠償を命令:ケアプランが形骸化した施設の責任

こんにちは、ぺーさんです。

食事の支援は、障害福祉でも介護でも毎日欠かせない場面です。そして、誤嚥(ごえん)は、一度起きると命に関わる事故につながります。

今回の「判例シリーズ」第5回は、嚥下機能が落ちていた入所者に、刺身を含む「常食」を出して誤嚥死亡事故が起きた裁判例です。介護老人保健施設の事案ですが、障害福祉のグループホームや生活介護など、食事を提供するすべての事業所に通じる内容です。

事案の概要

水戸地方裁判所の平成23年6月16日判決です(判例時報2122号109頁)。

  • 亡くなったのは86歳の男性。パーキンソン症候群、多発性脳血栓、認知症があり、入所時から嚥下機能が落ちていました
  • 平成15年8月25日に施設に入所し、入所時のケアプランには「ペースト食」と記載されていました
  • 同年10月21日に、医師の判断で、刺身など4品目を含む「常食」を出すことが決まりました
  • 平成16年11月3日、昼食の刺身(マグロ・ハマチ)を誤嚥して窒息。蘇生措置を受けましたが意識は戻らず、平成17年3月17日に心不全で亡くなりました

裁判所の判断

裁判所は、施設が利用者の心身の状態を把握し、誤嚥などの事故を防ぐ「安全配慮義務」を負うとしたうえで、次の点から過失を認めました。

  • 入所時から事故の日まで、嚥下の状態は「良好とは到底評価しがたい状態」だった
  • 提供された刺身は、健康な人と同じ大きさで、飲み込みやすくする工夫がなかった
  • マグロは、筋があると噛みにくく噛み切れないこともあるため、嚥下能力が低い高齢者に提供するのに適した食べ物とは言いがたい
  • 食事の形態を変えたのに、ケアプランの見直しの手続きがとられず、サービス担当者会議も開かれていなかった

賠償額は、遺族3名に対して各734万円余とされています。

「ケアプランの形骸化」が問われた

この事案で、特に重要だと感じるのは最後の点です。ケアプランには「ペースト食」と書かれていたのに、実際には医師の判断だけで「常食」が決まり、家族は4品目が常食で出されていることを知りませんでした。

つまり、記録の上では「慎重な食事」、現場では「常食」という状態が生まれていたということです。書面と実際のケアがずれていたことが、責任を重くした背景にあると考えられます。

障害福祉の現場での置き換え

以下は判決そのものではなく、私の実務経験にもとづく考えです。

障害福祉の場合、この「ケアプラン」にあたるのは、サービス等利用計画や個別支援計画です。食事の形態(きざみ、ペーストなど)や、食べ方の支援方法を変更するときは、次のようなことが必要になります。

  • 変更を決める人を医師などの一人に任せず、支援員、看護職員、管理栄養士など、関わる職員で共有する
  • 計画書、食事形態の指示書、厨房への伝達がそろって更新されているか、確認する
  • ご本人やご家族に、変更の理由と内容を説明し、記録に残す
  • 「今日の食事形態はこれ」と一目で分かるよう、食事の提供場面に掲示や個別カードを用意する

事業所が今日からできること

  1. 嚥下に不安のある利用者さんの一覧を作り、食事形態と最終見直し日を記載する
  2. 食事形態を変えるときの手順(誰が決め、誰に伝え、どの書類を更新するか)を、A4一枚にまとめる
  3. 誤嚥・窒息時の対応(背部叩打法、吸引、救急要請)を、年に1度は全員で練習する
  4. 食事中の見守りの位置と担当を決め、他の作業で目を離さない

まとめ

食事の事故は、「知らなかった」「伝わっていなかった」という情報のずれから起きやすくなります。計画書を作って終わりにするのではなく、実際のケアと計画を一致させる仕組みが、利用者さんとご家族の信頼につながります。

本記事は、公開されている判例解説などをもとに事案を整理した一般的な情報提供です。判決原文のすべてを確認したものではなく、個別の事案については弁護士などの専門家にご相談ください。

参考にした資料